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翌朝、俺は自宅から一キロ圏内のバイト先でコンビニの制服を着ていた。六時から九時までの三時間とはいえ、昨夜の酒盛りのせいで、いつもの倍つらかった。何度もあくびを堪える努力をしながら仕事を続け、客の出入りが薄くなった頃、もう一人の大学生バイトの山下にレジを任せ、ドリンクの補充を始めた。
裏の冷蔵庫で眠気もようやく覚めてくると、朝早くに帰らせてしまったルカのことが思い浮かぶ。ルカはああ見えて相当酒に強いらしい。いつもと変わらない様子で片手を振って去っていった。どうせなら今日も泊まっていくよう誘えばよかったと後悔した。
「そんなに一緒にいたいのか?」
口に出して自分に問いかける。ルカとはまだ一ヶ月半ほどの付き合いなのに、なんだか心に根付いてしまっていた。
「しょうがないよなー。だって、あのかわいさは反則だろー」
仕事をしていた俺に、売り場の方からケースのドアを開けて女の子が話しかけてくる。
「本条さん、何一人で喋ってるんですか。お客さんに驚かれますよ」
ドリンクの列の隙間から、セミロングの、目のくりっとしたかわいい顔が覗いていた。俺は急いで表へ出て、狙っていた女子高生の可奈ちゃんと話を始める。
「おはよう、早いね」
「文化祭の準備があるんです。私、看板を描くことになってるから早目に取りかからないといけなくて」
「可奈ちゃん、美術部だって言ってたもんな。忙しいね」
「忙しいのは本条さんもでしょ」
可奈ちゃんは、横目で俺を窺ってきた。
「最近、全然誘ってくれないなあと思ってたんですけど、あの人見て納得しちゃいました。私なんかより数倍かわいいですもんね」
それだけ言うと、可奈ちゃんは買い物袋片手に、さっさと店を出ていってしまった。
わけがわからず、首を捻りながらレジに戻った俺に、山下がいやらしい笑みで説明してくれる。
「いつだったか、学校帰りに見かけたんだってよ。本条が、かわいい外国人の子と仲良く歩いてるとこ。いつの間にそんな子引っかけたんだよ。今度、俺にも会わせてくれよ。可奈ちゃん、芸能人みたいだって言ってたぜ」
誰のことかはすぐわかった。思い当たるのは一人しかいない。でも……
「可奈ちゃん、勘違いしてるんだな。それ、男だよ。映画館で一緒に働いてるルカってハーフの子。見ようによっては女の子にも見えるのか……」
最後のは個人的な感想になった。
「えー。なんだよ、男かあ。いくらかわいくても男じゃなあ。同じ物ぶら下げてる奴にそんな気になれないよなあ」
誰もいないのをいいことに、山下は大声で言った。
たぶん、以前の俺なら同意していたに違いない。だけど、この時は腹が立った。何故か、好きな相手を侮辱されたような気がした。
そんな俺に気づきもせず、山下は話を続ける。
「可奈ちゃん、本当はおまえに気があるみたいだぜ。またデートに誘ってみろよ。今度はオーケーしてくれるんじゃないか」
それに対して俺が返せたのは、なんとも言えない苦笑いだけだった。
上着のポケットに両手を突っこんで帰りながら、俺はずっとルカのことを考えていた。これまで生きてきた二十一年間、女の子にしか興味を持ったことはない。ルカほどではないにしろ、かわいい顔をした男も見たことはあったけど、特になんとも思わなかった。それなのに、ルカは違う。少しずつ距離を縮め、関係が深くなるごとに心を占める割合が増していく。あんなに落としたかった可奈ちゃんも色褪せてしまった事実に、今日はっきりと気づかされてしまった。
「なんなんだよ、これ……」
もどかしくて、つい、右手で頭を抱えた。こんな感情は初めてで、そして、それに振り回されるのが苛立たしかった。
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