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第三章・2

 表向きは、官能小説と間違えそうな本だ。  表紙は、艶めかしい数人の男女の裸体で飾られている。  内容も、濡れ場の多い一見単なる娯楽小説。  しかしその裏テーマは、政治の中枢に対する批判と嘲笑に満ちている、と書評家が語った。  政治家と呼ばれる、民衆の模範となるべき人間の、この堕落しきった有様はどうだ。  派閥に汚職。癒着。裏取引。  あからさまな描写は避けてあるが、それが政府の特殊階層の者たちが織り成す腐敗であることは、読み進めてみるとすぐに勘付く。  要人がこの本を初めて手にしたのは、まだ13歳の時だった。  友達が、おもしろい本がある、とニヤけながら貸してくれた。  性に目覚め始めた頃だったので、やはりセックス描写に眼が行ったが、精神年齢が高かった要人はこの本の持つ真の意味を読み取った。  政治家は、汚れたものと捉えられているのだろうか?  筆者は未だ不明だ。  自費出版で刷りだされたわずかな部数は、あっというまに完売した。  再販を求める声が大きかったが、成されなかった。  そしてそれは、裏から圧力がかかったためだ、とまことしやかな噂が流れた。

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