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第三章・6

 恋人として付き合いたい、と願ってそれが成就した。  あの時は、天にも昇る心地だったっけ。  翌日には、すぐさまキスしようとしたけど……。 「あの時の優希、可愛かったな」  要人は、小さく笑った。  キスは、取り乱した優希に、思いっきり拒否されてしまったのだ。  その後もそうだ。お泊りに誘ったけど、結局セックスはしなかったし。  恋人になってすぐは、これまでと同じように。  今まで付き合ってきた女の子たちと同じように、キスして、抱き合って、セックスしようと張り切っていたものだ。  けれど、優希が誰より大切な今は、優希に誰より好かれたい今は、逆に奥手になっている。  自然に、心も体も許しあえるようになる時期を待とう、と静かな気持ちに落ち着いている。 「でも、アレはないよなぁ。どうしちゃったんだろう、俺」  優希の前で手にすることをためらった、あの本。  別に構わないはずだ。  優希も児童書について、なぜそれを買うのかを詳しく話してくれた。  同じように、一見エロ本だけど奥深いテーマが隠されてるんだ、と説明すればよかったんだ。 「あ~も~、俺って馬鹿~……」  夕食を摂るのも面倒で、そのままベッドでごろごろしていた要人は、いつのまにか眠ってしまっていた。

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