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第三章・7
「なぜ要人は、あの本を買わなかったんだろう」
時を同じくして、優希もまた自室のソファに腰掛けて自問自答していた。
せっかく手にした数冊の本。
それすら目を通さずに、要人の事を考えていた。
実を言えば、例の本の存在は優希も知っていた。しかも情報を得たのは、要人からだ。
彼はその事を、忘れてしまっているのかな。
まだ幼い少年時代に、要人がこっそり見せてくれた本。
男女の裸身が縺れ合う表紙はあまりに刺激的で、忘れようにも忘れられない記憶となった。
次いで、中をパラパラとめくって、二人でエッチなシーンを抜粋して読みふけった。
『でもこれって、ただのエロ本じゃないんだ!』
そう得意げに話す、要人の顔が目に浮かぶ。
大臣や官僚。政治家たちを批判する、社会風刺の本なんだ。
そう、要人は言ったっけ。
どこがどういう風に? と問うと、それはよく解かんないけど雰囲気で感じるんだ、と幼い思考で、それでも一生懸命に答えてくれたっけ。
「でも、ズボンの前はテント張ってたんだ」
優希は、思い出し笑いをした。
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