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第三章・10
「これから訪ねてもいいか、だなんて。優希、どうしちゃったんだろう」
寝ぼけ眼は、電話の相手が優希だと解かった瞬間にバッチリ覚醒した。
ロボット掃除機に部屋をきれいにしてもらいながら、要人は手早く軽食の準備をしていた。
夜に、いきなり会いたい、なんて。
ちょっと艶っぽい気もするけど。
「でも優希のことだから、そんな不純な動機じゃないよな、きっと」
おそらく、さっき手に入れた本の中に素晴らしいものがあって、そのことについて語りたい。
そんなところだろう。
不純な動機、か。
やっぱり、優希と愛し合いたい。身も心も一つになりたい、と思うのは汚れた考えなんだろうか。
ひとりでに真顔になってしまった要人は、両掌で頬をぱちんと叩いた。
どちらにせよ、優希がこうして訪ねてくれるのは嬉しい出来事なんだ。
曇った顔なんかしちゃいられないんだ。
オーブンレンジのアラームが鳴る音に重なって、玄関のベルチャイムが響いた。
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