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第三章・14
始め、の合図は無しに、優希が一口ぽりりと齧る。
そうやって、積極的に近付けるのは今のうちだけ、と要人は余裕でその倍ほどかりりと齧る。
ぽり、かり、ぱき、とプレッツェルを齧る音だけが、静かな室内に響く。
最後に一口、大きく齧った要人。
これ以上齧ると、もう唇が触れ合ってしまう、というところまで思いきって進んだ。
「……」
優希の動きが、止まった。
今まで順調に進んでいた優希が、ぴたりと動くことをやめた。
窺ってみると、眉根を寄せ目を閉じ、唇を結んでいる。
(今、いい雰囲気なんだけどな)
そんな風に思って、要人は優希の肩をそっと引き寄せようとした。
途端に、びくんと震える彼の体。
案の定、優希の唇からプレッツェルがぽろりと離れた。
やっぱり、まだ無理か。
「ふふ。俺の勝ちだ」
「あぁ。君の勝ちだ」
緊張した空気が解かれ、室内に日常が戻ってきた。
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