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第四章・4
昼、混雑する食堂へ要人が姿を現すと、優希が手を挙げ席を知らせてきた。
一人分の食事をトレイに準備し、要人は優希の向かいへ座った。
「お待たせ。遅くなって、ごめん」
「いや、いいんだ」
二人しかいないのに、なぜか4人掛けの席についている優希。
そして、空いている優希の隣にはバッグが置いてある。
(いつもならロッカーに入れておくはずなのに)
不思議に思った要人は尋ねてみようとしたが、先に優希の方が話しかけてきた。
「あの、さ。朝の、バレンタインデーのことだけど」
あぁ、と要人はパンをちぎりながら苦笑交じりに応えた。
「立場的に、ちょっとまずかったかな。生徒会長ともあろうものが、バレンタイン商戦に乗っかっちゃうなんて」
午後の役員会議では、おそらく議題の一つに上がるに違いない。
生徒間におけるバレンタインデーの普及率とその弊害について、とかなんとか大仰なことを言って。
「経済効果があるなら、少しくらい良いと思うんだけどな」
そんな会話を交わしながら見る優希の様子は、朝と同じくどことなくぎこちない。
(俺へのプレゼントがないからって、そこまで気にすることないのに)
黙って勝手に、自分だけ盛り上がっちゃったのはまずかったかな、と要人は少し後悔した。
もらって気が重くなるほど高価な品を選んだつもりはないが、別の意味で優希を苦しめることになろうとは。
バレンタインの話は無理にねじ伏せて、要人は別の話題を優希に投げ続けた。
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