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第五章・8
ホントに営業してるのかな、と不安になった二人だが、看板はちゃんと出ているしウェルカムボードも掛けてある。
要人はそっと引き戸に手を掛け、横にがらがらと滑らせた。
ドアが手動という点もまた、この上なくレトロだ。
「建てつけは悪くないな。簡単に開いたよ」
「家主さんはきっと、几帳面な人だ」
そんなことを言い交わし店内に入ると、すぐに優希の足へ猫がすり寄ってきた。
ごろごろと喉を鳴らす音が聞こえてきそうだ。
白に黒いぶちの入ったその猫は、しきりに顔を優希に擦り付けている。
「優希、さっそくマーキングされてるなぁ」
「変なこと言うなよ。お腹がすいてるんだ、きっと」
そこへ唐突に、いらっしゃい、との声が掛けられた。
見るとそこには、年老いて小さく縮んでしまった老婆が立っていた。
もう3月も末だというのに、毛糸で編んだもこもこのセーターやカーディガンでやたら着膨れしている。
しかし、にこやかな笑顔に加えて、腕にはサバトラの猫を大切そうに抱いている。
優しくその毛をなでる手には慈しみ深さが溢れており、心から猫を愛しているようだ。
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