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第五章・11

 するとその鳴き声に誘われたように、これまた妙な声で鳴きながら一匹のトラネコが近づいてきた。  そして、床に這いつくばった白猫の上に跨り、その首を噛んだのだ。 「え!? ちょっと、コレは!」 「大変だ、猫が噛まれた! 要人、早くお婆さんを呼んで止めさせなきゃ!」 「あ、いや。優希、そうじゃなくって……」  あれよあれよという間に、マウンティングしたトラネコは活発に腰を動かし始めた。  さすがの優希にも、この行動を見れば猫たちが何をしているのかが解かるというもの。 「……」  見ないふりをし、そして何とも思っていないふりをしてはいるものの、顔が真っ赤だ。 (これをカワイイとか言うと、本気で怒るだろうな)  気まずい雰囲気を醸す優希は、要人にはひどく純情に感じられたが、これ以上彼を困らせるほど悪趣味ではなかったので、手を挙げて老婆を呼んだ。  猫が交尾してますけど、との要人の言葉に、さらに固まってしまう優希だ。 (要人! そんなあけすけに『交尾』とか言う!?)  だがのんびりとやって来た老婆も、要人同様に何とも思っていないのだ。

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