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第五章・19

「ごめん、痛かったのか?」 「いや、そうじゃなくって」  気持ち悦かった  そう、耳元で囁かれた。  ぞくりと、優希の背筋に震えが走った。  悪寒ではない。  突き上げてくる、熱い衝動。 「今度は俺の番。噛んでもいい?」 「う、ぅん」  要人は再び優希の首筋に顔を埋めた。  ああ、いい匂い。  優希の匂いだ。  今まで付き合ってきたガールフレンドたちは、皆なにかしらの匂いがした。  それはトワレだったり、ヘアコロンだったり。  しかしそれらは、人工的に作られた香り。  彼女たちそのものの匂いではなかった。  だけど、優希は。 「優希、何か香水とか付けてる?」  首を何度も甘噛みしながら、その合間に要人は訊いてみた。 「そ……、んな、物。付けない、よ」 「だろうね。良かった」 「なに……が、だよッ、て、いつまで噛んで……ッ」  ごめんごめん、と要人は優希から口を放し、彼の顔を確かめた。  耳まで赤くし、眼を潤ませ、唇を薄く開いて口呼吸をしているその姿。 (Bの入口までたどり着いたぞ!)  内心ガッツポーズを決めながらも、優希のプライドを損ねないよう自分の首筋を彼に差し出した。

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