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第12話

 自然界における掟──弱肉強食──に照らし合わせれば大昔、豹と鹿は捕食する側と捕食される側の関係にあった。だが知性を得た現在(いま)では、お互い善き隣人だ。ソーンとはとりわけ馬が合い、王室を離れて初めてできた友人だ。  ヴォルフは封書を裏返して眉をひそめた。紋章をあしらった蠟印を引きむしって封を切り、眉間の皺をますます深めた。そしてケッタイな裏声を張りあげて音読する。 「我が崇敬なるラヴィア六世陛下の肝煎りにより、来たる(しょく)の夜にジョイス・プレシュバ=ラヴィア王子を偲ぶ(うたげ)を催しますことを、ここにご報告申しあげます──だとさ。ばっくれるんじゃねえぞ、って国王の執務官が釘を刺してきた」 「王族大集合の饗宴かあ、豪勢なんだろうね……ごめん、不謹慎でした」  蹴りをくれるふり、大げさによけるふりで気まずい空気を吹き飛ばした。ソーンが配達先で仕入れてきた噂話に笑いころげている最中、電話が鳴った。受話器を取ると、 「耳だ、今日中に耳をこしらえてくれ!」  交換手が回線をつなぐか、つながないかのうちにダミ声がまくしたてた。  耳にキンキン響いた、と言いたげにソーンが鹿族特有の丸っこい尻尾を振った。  ヴォルフは唇の前で人差し指を立てると、受話器を左手に持ち替えた。 「つけ耳のご注文ですね。しかし今日中にとおっしゃられても一度当方に足をお運びいただいて採寸しないことには、お客さまの頭にぴったり合うものを作りかねます」  と、わざと鹿爪らしい口調で応じつつ注文台帳をめくって唸った。そうだ、どうしたことか、ここ最近注文数がうなぎのぼりで、さばききれる量を超える勢いだ。  葉書の文面が目に入った。差出人曰く、自分は役者だが風邪をこじらせたあげく耳が欠けてしまい、このままでは役者生命にかかわる、ついては早急に本物そっくりのつけ耳を作ってほしい──云々。  風邪をひいて耳が欠けた、だって?  葉書はもう一枚届いていた。似たり寄ったりの内容で、耳がハゲたと窮状を訴えている。 つけ耳は装飾品のひとつだ。義手や義足と同様に、欠損を補う目的で誂えたいと望む獣人が急増しているのか……?

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