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第13話
尊大ぶった咳払いが耳朶を打ち、受話器を握りなおした。
「生憎と注文が殺到していて早くても二ヶ月待ち、いや、三ヶ月……」
怒声が語尾をかき消した。
「若僧の分際でお高く止まりおって。わしは本来、貴様ごときは口もきけない元老院の高官だぞ。つべこべ言わず融通を利かせんか!」
あいつか、とヴォルフはこっそり舌打ちをした。高官という地位を悪用して賄賂を要求するヒヒじじいだ。
ソーンが自分の頬をつねった。俺は実は第八王子だ、とヴォルフが身分を明かししだい、相手が打って変わってへいこらしだす場面を想像して噴き出すのをこらえているのだ。
「もういい、貴様には頼まん!」
電話が叩き切られた。ヴォルフは残響でむず痒い耳の穴をほじくり、ソーンは床に仰向けに寝転がって足をばたつかせながらヒィヒィ笑う。ややあって、むっくり起きあがると真剣な顔つきで言った。
「おいらの従兄の友だちの、にいちゃんも耳の毛がごっそり抜けたらしくて気色悪い話だろ? 情報通のソーンさまでも何が何やら、新種の皮膚病かなあ?」
「かもな。まっ、皮膚病なら医者の領分だ」
「素っ気ないったら、ないや。そういや交易船が港に入った、市 が立つよ」
「どうりで表が騒がしい」
波濤を越えてやってきた船は異国の香りが漂う荷を売りさばくと、ハネイム王国の特産品で船倉を一杯にして去っていく。子どもたちが先を競って港へ走る。女たちも手に手に籠を持って後を追う。
ヴォルフもひと仕事終えたあとで、ぶらりと市を覗きにいった。いつしか夏へと移ろいゆく兆しを見せて海の色が濃い。南国産の香辛料はともかく、109なる遺跡から出土したという触れ込みの色つき眼鏡といった、いかがわしい品を並べた露店を冷やかして回る。
氷山がそびえ立つ海域、海獣──これこれこういう生き物だと説明されても想像がつかないが──が迫力満点に潮を噴きあげる海域、と七つの海を股にかける船員の冒険譚を聞くと心が躍る。
自分もいつか探険の旅に出てみたい、と思うほどに。
今回の市はいつにもまして品数が豊富で、買い物客であふれ返っている。ぶらぶらと歩いていると、
「そこの粋な兄ちゃん、彼女に貝殻細工の腕輪なんかどうだい。値打ものだが勉強するよ」
安っぽい腕輪が懐 にねじ込まれ、刀傷が頬を走る水夫に突っ返す。腕輪から指環を連想すると愁い顔が目の前にちらついた。
輝夜は嘆き暮らしたあげく半病人のようになっているかもしれない。いちど様子を見がてら家を訪ねてみようと思いつつ、忙しさにかまけて一日延ばしにしている間に、弔いの夜からひと月が過ぎた。市で面白いものを見つけて買ってきた。これなら訪問する口実にうってつけだ。
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