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第16話

 えずき、ヴォルフは後ずさった。断じて認めるものか、と脳みそが拒絶反応を起こしているが、つまり、という現場に踏み込んでしまった……。 「ぅ、あ、あ……っ!」  嬌声が空気を震わせ、ふたつの影がいっそう激しく動いた。輝夜は背後から男に貫かれ、だが抵抗するどころか悦んでいる証拠に細腰(さいよう)をくねらせて憚らない。  琥珀色の双眸が怒りに燃え立つ。体液の臭いと汗のそれが混じり合ったものに吐き気が強まり、尻尾がカウンターの上に置いてあった水差しを薙ぎ倒す。  ジョイスを喪って哀しみの淵に沈んでいると思いきや、もう新しい男に乗り換えたのか。霊廟を見つめて流した涙は、まがいものにすぎなかったのか。  水差しが床に転がり落ちて割れた。男の動きが止まり、ヴォルフはその男めがけて突進するとともに蹴りのけた。  すかさず、尻餅をついた男を跨いで片足をあげた。湯気を立てているように見える怒張に靴底をあてがうと、醜怪きわまりないそれを踏みつぶしてやるのも一興という体で、こころもち力を加えた。 「失せろ、二度とこの店に近づくな……!」  男は狼族およびイヌ族のうちのグレートデーン系で、どっしりした体格の主だ。この系統は体つきに反して温厚と相場が決まっていて、しかも殺気をみなぎらせた豹族に()め下ろされている。ほうほうの(てい)で退散した。 「ようこそ、と言えば皮肉っぽく聞こえるだろうね。でも、他に挨拶しようがない」  輝夜が卓上ランプを灯した。上気した顔が快楽に耽った名残をとどめて、なまめかしい陰影が生じる。むき出しの股間の中心が、炎を照り返して濡れ光るさまがたとえようもなく淫靡だ。  目が(けが)れる、それでいて磁力が働いているように視線を捉えて離さない。ゆうるりと尻尾がしなって、壁を打ち叩いた。  本当に打ち据えてやりたいのは、腐れた臭いが染みついた躰だ。しどけなく、はだけたシャツから覗く喉元だ。なぜなら、すんなりした指には重たげだった指環に鎖を通して首から提げている。  ジョイスが愛情を込めて贈ったそれを付けたまま別の男とまぐわっているところに、亡き恋人の弟が来合わせたのだ。うろたえたそぶりを見せれば可愛げがあるものを、悪びれた色もないとは、ふてぶてしいにも程がある。

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