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第38話

 だいたい御前会議と銘打ったこの集まり自体、滑稽きわまりない。具体的にこれからの方針を立てるより、ちゃんと協議を行ったという記録が残ることが重要なのだ。 「救護院を設け、王立病院の医師を選抜して、診療に当たらせるべきです」  保健大臣がこう進言するそばから、 「貴君の大げさなことと言ったら、さだめしノミの心臓であることよなあ」  宰相がケチをつけ、さらに王子たちが混ぜっ返してウヤムヤになる、という流れに終始する。  うんざりだ、とヴォルフは右に左に首を倒してコキコキと鳴らした。猿芝居につき合わされている間中、ともすると白皙の(おもて)が目の前をちらつく。そのたびにうろたえ、うろたえた自分に腹を立てると、双眸の中の翠緑色の斑点が輝きを増す。  あたかもヘドロの中でもがいているところに縄梯子を垂らされたように不快感がやや薄らぎ、そのくせ口がへの字にひん曲がる。ただでさえ苛々しどおしなのに、なんだって輝夜を思い出すんだ?  不毛な議論が繰り返されたすえに、鶴のひと声で締めくくられた。 「──耳が腐れるなど本人の心がけが悪いからに相違あるまい。ゆえに静観の構えを保つのが得策であろう。皆のもの、大儀であった」  ヴォルフは大っぴらにため息をついた。茶番劇は今度からは俺を抜きにやってくれ、と声を大にして言いたい。  ラヴィア王が退出するのを待ちかねて謁見の間を後にした。側妾(そばめ)の母親は王宮内に部屋を賜っている。せっかくだ、会っていくか。  そう思って階段へと向かった。ヒトが隆盛を極めていた時代の遺跡に倣った壮麗、且つ長ったらしい廊下だ。シャンデリアが等間隔にぶら下がり、夜ともなれば蠟燭の炎が乱反射して揺らめき、そこかしこに化け物がうずくまっているような不気味な影を生み出す。  よちよち歩きのころのヴォルフにとって、この廊下は尻尾がしゅるしゅると萎むほど恐ろしい場所だった。第一から第六までの王子が見逃すはずがない。肝試しと称して丑三つ時にヴォルフをここに引きずってきて、置き去りにしていった。  歯を食いしばって泣くのをこらえていると、必ずジョイスが捜しにきてくれて、おぶって自室につれて帰ってくれたものだ。  良くも悪くも思い出深い廊下の壁には、歴代の国王の肖像画が麗々しく飾られている。いずれ第一王子が順当に即位するのか、意外や意外、番狂わせが起きるのか。 「まっ、好きにやってくれ」  肩をすくめて階段の、一番下の段に足をかけた。その直後、尻尾を引っぱられた。

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