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第39話
尻尾を引っぱる。幼子 同士がじゃれ合ってそうするぶんには大目に見てもらえても、獣人の世界においては最大の禁忌だ。不埒な手を叩き落としざま反転すると、異母兄たちが腐肉を踏んづけでもしたかのごとく、そろって鼻をつまんだ。
「貧乏たらしいナリで拝謁つかまつるとは、恥知らずめ」
第一王子が、さも厭わしげにジーンズを指さした。
「丈夫で動きやすくて、おまけに安い。合理的で素晴らしい品だ。もしも、いいか、もしもだ。兄上たちが瘦せたら贈呈しよう」
敢えて白い歯をこぼし、伸びやかな脚の線を見せつけるように一回転した。
「街暮らしの垢をこびりつかせて、王族の面汚しが」
次兄が獅子の尻尾を振り立てた。
「高貴な血筋の我々とは違い、末の王子は豹族との合の子。うらぶれた暮らしのほうが落ち着くのでしょうよ」
第五王子がしたり顔で話を引き取ると、六人ともゲラゲラと嗤った。
ヴォルフは、おもむろに床を蹴った。
身の程知らずの異母弟が殴りかかってこようものなら返り討ちにしてくれる。と、ばかりに王子たちは拳を固めたが、博物館で剥製が展示されているのみのナマケモノ並みに動作が鈍い。
ひらり、ひらりととんぼ返りをしながら彼らの間をすり抜けた。月齢十三ともなれば精気があふれて、この程度の芸当は朝飯前だ。
お尻ぺんぺんを「ごきげんよう」に代えて廊下を駆け抜けた。伏魔殿から脱出する思いで庭園を突っ切り、長剣を逆さまに並べたような形の柵とひとまとめに塀を飛び越える。
完璧な着地を決めて石畳を踏みしめた。囚人を護送するようなやり方で王宮につれてこられたおかげで、生煮えの芋を詰め込んだみたいに胃がむかむかする。ソーダ水でも飲んで、すっきりしよう。
さっそく王宮前広場に行くと、人混みをかき分ける羽目になるどころか、ハネイム王国の始祖の銅像ばかりが目立つ。衛兵の交替時間ともなれば風物詩をひと目見ようと、おのぼりさんでごった返すのが常にもかかわらず──だ。
観光客目当ての屋台の数もふだんの半分以下で、色とりどりの幟 が翻ると、かえって侘しい。入道雲がもくもくと湧き、そぞろ歩きを楽しむにはいささか暑いが、それにしても異例の閑散ぶりだ。
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