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第48話

 ともあれ協力し合った甲斐あって、目当ての薬草を大かた採取し終えた。腹ごなしを兼ねて森の中を流れる小川へと足を伸ばす。  この季節に花を咲かせる水草を煎じたものが、 「咳止めに効くんだ。耳欠け病は、耳が変形しはじめるのと同時進行で気管支炎に似た症状が出はじめるよね。素人考えだけど、そのあたりに病因を特定する鍵が隠されているんじゃないのかな。きみはどう思う?」 「知らね。俺にできることは、気休めだろうが耳が変になっちまったやつに頼まれたら、つけ耳を作ることだけだ」 「誰にでも平等に接する。簡単そうで、いっとう難しいことだよ」  せせらぎは澄み渡り、すいすいと小魚が身を翻すたびに水底の砂利が竜巻状に巻きあげられるさまはおろか、石に産みつけられた米粒ほどの卵嚢(らんのう)さえ浮き出して見える。  輝夜は岸辺にしゃがみ、流れに手を浸した。ゆらゆらとそよぐ水草の茎に小刀を当てながら前かがみになり、ところが先週は雨つづきだったせいだ。土の表面は乾いていても、土中はじゅくじゅくと水を含んでいる。いきなりヘラでこそいだように、膝をついたあたりが崩れた。 「惜しいな。顔からドボンって面白いものを見損ねた」  と、にやつき、腕を摑んで輝夜を助け起こしたまではよかったが、水辺の一部がえぐれるついでに粘土質の層が露出した。共に足をすべらせて、いきおい抱き合う恰好になった。  ところでヴォルフがつけ耳を製作するうえで最もこだわるのは、採寸だ。この過程をおろそかにしては、依頼主の頭部にしっくりと馴染むものは出来上がりっこない。  極端に言えば原理は同じだ。肉食獣系の獣人の男子は、総じてたくましい。縦横ともにひと回り小さな肢体は、誂えたように腕の中にすっぽりと収まった。  急いで輝夜から離れろ、でないと取り返しがつかないことになる。うなじの飾り毛がぞわぞわと逆立ち、だが駄目だ。あたかも凸と凹の形をした部品がかっちり嵌まったかのごとく、振りほどこうにも振りほどけない。内心、うろたえながらも顎をしゃくった。 「おい、どけ!」 「きみから、どうぞ」  諾々と従うなど、仮にも王子としての矜持が許さない。逆に踏ん張ったのが災いして、足下がごっそり崩れた。身をもぎ離す好機にもかかわらず、咄嗟に輝夜を抱きしめていた。  音色が異なる楽器のように、互いの心音が響き合って(たえ)なる調べを奏でる。陽が翳り、緑の黒髪に縁取られた顔に、妖艶な──としか表現のしようがない影を()いた。  さしずめ内側からこつこつと殻をつついて、〝別の輝夜〟が顔を覗かせた。

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