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第5章 月宿る

    第5章 月宿る  苔にしっとりと覆われた地面はビロードのようになめらかで、(しとね)にうってつけだ。  気が急くときに限ってボタンホールの縁かがりがほつれる。糸がボタンに絡まり、ヴォルフは手っ取り早く、セーターを脱ぐ要領でシャツを脱ぎ捨てた。  その間に、輝夜も自ら胸をはだけた。陶器めいてすべらかな肌に、乳首がぽつりと彩りを添える。木苺のように摘み取ってほしげで、掛け値なしに代物(しろもの)だ。  現に視線はおろか、躰ごと吸い寄せられる。ヴォルフは輝夜の正面に膝をつく一方で、己の乱心ぶりに呆れた。いわば売られた喧嘩を買った形とはいえ、八つも年上で、おまけにヒト族の男を抱いてみようだなんて冗談がすぎる。だがペニスも尻尾も火照るあたり、情交へとなだれ込むにやぶさかではないらしい。  もっとも手順に関する知識は貧しいもので、ぶっつけ本番で事に臨むとあって不安は尽きない。試みに顎に指を添えて、仰のかせた。それが輝夜の流儀なのか、くちづけを乞うて朱唇が尖る。  ヴォルフの考えでは、くちづけとは恋人同士の神聖な語らいだ。ゆえに黙殺しておいて乳首をつまむと、 「瓶のコルク栓じゃないんだ、もう少し力を抜いてほしい」 「へいへい、不調法で相すみません」  つけ耳屋という稼業は、手先の器用さと独創性を同時に求められる。ヴォルフはその点、ずば抜けていて、顧客の信頼も厚い。  要するに、と思った。つけ耳の土台に用いる海綿の形を精緻に整えていく技術を応用すればよいのだ。なので早速、ただし今度はやんわりと右の粒を揉む。もちろん自分の躰にも同じものが一対ついているが乳首など、そこにあるという程度の存在だ。  かたや可憐な尖りは、芯にゴムのような弾力があって満更でもないさわり心地だ。ただ如何(いかん)せん、小さすぎてつまみにくいのが難点だ。  力の入れ具合を加減しながら指を蠢かし、ほのかに膨らむのを待った。まずまずという水準に達したところで、乳暈(にゅううん)全体で挟み込むように掘り起こす。 「ん、ぁ……」  ぱっと指を離した。荒っぽく扱いすぎたか、と案じるはしから、催促がましげに胸がせり出す。たちまち精悍な顔が皮肉っぽくゆがむ。ちょっと、いじってやったくらいのことで早くもよがりはじめるとは、淫乱の本領発揮というわけだ。いささか興醒めしたぶん、再び乳首をいじるにしても、こそげるふうな動きを追加して縦横(じゅうおう)にひねってしまう。 「ん、ん……反対のも、お願いだ……」  と、艶冶な眼差しを向けてきて、摑み取った手を左の乳首へといざなう。

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