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第52話

   振りほどいて、わざと同じ粒ばかり攻めた。苔の褥が切なげによじれて窪むたびに、獅子の横顔を象った指環が喉元で揺らめく。  この、ヒトの旨みを凝縮したようにたおやかな躰の上を、いったい幾人のオトコが通りすぎたのだ? その中でもジョイスは別格の存在だったのだと信じたい。ただ、結果的に兄弟そろってたらし込まれたわけだ、と思うと苦笑がにじむ。より正確に言えば進んで男遍歴の一ページに加わろうというのだから、酔狂な話だ。  ヴォルフは眉根を寄せた。今ならまだ後戻りできる、まだ間に合う。にわかに怯み、それでいて乳首がほんのりと色づくと生唾が湧く。  思い切ってひと舐めしてみた。悪くない、むしろ味わい深い。今度は唇の上下で挟むと、新しい玩具を手に入れた子どものように好奇心を刺激された。吸えば、海ほおずきを吹き鳴らして遊んだときに似た感触が癖になる。甘咬みするうちにこりこりに尖って、独特の歯ざわりにこれまた病みつきになりそうだ。  ペニスがいきり立ち、前立てを突きあげて存在を誇示する。隆起したさまを見て取って、 「交代……しようか」  輝夜は艶っぽい声で囁きかけてきた。へどもどするヴォルフをよそに、たくましい体軀の下から素早く這い出すと、ファスナーが山なりに変形して金具が(つか)えるありさまにもかかわらず、いや、それが経験豊富な証拠だ。  てきぱきとジーンズをくつろげると、正座に足をたたんだ。そして気を持たせるふうに、ゆるゆると上体を前に倒す。下着の(へり)を咥えて、ずり下げるが早いか穂先に舌を這わせた。 「……くっ!」  尻尾が跳ねた。処理する必要に迫られて、ときどき自分でしごくのとは次元が異なる。舌が閃くたびごとに、快感の火花が散るようだ。眼下で繰り広げられる光景はあまりにも(みだ)りがわしく、視覚へ強烈に訴えかけてくる。  そのうえ鈴口をついばまれると刺激が強いどころの騒ぎではない。図らずも呻き声が洩れると、してやったりと言いたげな含み笑いが和毛(にこげ)をそよがせる。 「プラタナス通りで警官隊が出動する騒動があった日、茶房に来てくれたあの日。おれの部屋でいけないことをしていたきみは、必死にごまかそうとして可愛らしかった」  シラを切り通そうにも尻尾が苔を削ぎ取るほどばたつくようでは、白状したも同然だ。ヴォルフは口をひん曲げた。今まさに放つ、という場に行き合わせたときには見て見ぬふりをしておきながら、ペニスをいわば人質に取った状態で蒸し返すとは意地が悪い。

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