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第54話

 合点がいったというふうに朱唇の、その口角が、くっと上がった。棚ボタと言いたげに舌なめずりするのにともなって、白皙の(おもて)がいっそう(なま)めく。  輝夜はおもむろに立ちあがると小鉤(こはぜ)を外した。地下足袋につづいてニッカポッカと下着をひとまとめに脱ぎ去る。そしてヴォルフのそれとは対照的に、細身で優美なペニスを(てら)いもなくさらけ出した姿で苔を踏む。シャツ一枚羽織ったきりの姿が、蔓の向こうへ一旦消えた。  そのさい蔓に引っかかってシャツの裾がめくれた。引きしまって尻たぶの両脇のエクボが愛らしい双丘が見え隠れすると、涎を垂らすように先走りがにじむ。しかも貧乏ゆすりに膝が上下する始末で、みっともないことおびただしい。  尻尾が苛々と宙を()ぎ、そこに輝夜が、ヘラに似た形の草をひとたば手に戻ってきた。 「なあに、フリチンでうろついてんだ」 「ちょうどいいものが川岸に生えていたのを思い出して摘んできた」    さらりと答えて草を揉む。粘り気のある汁を搾り出すと、 「とろりとして人体に無害で、天然の潤滑剤だよ」  柑橘系の香りがするそれをヴォルフの掌に垂らした。苔の褥に這いつくばると、腰を掲げて自ら双丘を割り開く。 「その汁を塗って、指でここをほぐして」  滅多にないことだが、ヴォルフはきょとんとした。我に返って、しげしげと掌を見つめる。天然の潤滑剤と称するこれを、どこに塗るだって?   尻の割れ目に沿って()め下ろしていけば、慎ましやかに在る窄まりへと行き着いた。巾着状にたたまれてヒナギクの蕾を思わせる、そこ。  が意味するものを(おく)ればせながら理解した瞬間、生え際まで真っ赤になり、ついでに豹の耳もピンと立った。 「冗談きついぞ。こんな、ちっぽけな孔に指なんか挿入(はい)りっこねえだろうが」  鼻で嗤い、だがイヌ族のオトコのそれを(まが)う方ないこの孔で銜え込んでいた。それ以前にジョイスとは恋人同士だったのだから当然、ここで幾度となくつながったはずだ。 「無理強いはしない。だけど中途半端でつらいんじゃないかい」  怒張へ婀娜っぽい一瞥をくれると、こちら向きに半身を起こし、腰を浮かせ気味にしながら足を広げた。  指一本触れていないうちからペニスは淡々しく蜜をはらみ、匂やかに誘いかけてくる。宝珠を経て花芯へ至る谷間が木洩れ陽に照らし出されるさまは、幻の、と謳われる類いの湖が出現したところを髣髴(ほうふつ)とさせた。  ヴォルフは思わず身を乗り出したのもつかの間、そそくさと後ろにずれた。行きがかり上、引くに引けないとはいえ、ヒトの男と……という点に抵抗を感じて根っこの部分ではためらいを捨てきれなかった。  なのに、なまめかしい姿態に煽られて月齢十三の豹の血が沸々とたぎる。実際、昂ぶりは(へそ)を叩くほど反り返り、きっかけひとつで弾けるのは必至。第一、挑発されっぱなしで降参するようでは男がすたる。

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