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第57話

 ヴォルフは、しなう背中を支えて応じた。自分が男を抱くなんて未だに現実味が薄い。だが素晴らしいのひと言につき、これっきりにするのは惜しい。童貞を安売りする形で体験して悔やんでいるか──否──。  羽ばたくようにのけ反るさまが喩えようもなく艶冶で、輝夜曰く「特に感じる」突起に照準を定めた。ぐりぐりと(いただき)でこすりあげると、腹のあわいで蜜が糸を引く。()れた内壁が陽根にじゃれついてくるのが、たまらない。 「ん、ん、んん……コツを摑むのが早い……もっと、突いて?」 「まったく。人使いが荒いぞ」  わざと顔をしかめて、ふと思う。前と後ろを同時に刺激してやったら、もっと可愛いところを見せてくれるのか。腹と腹をできるだけくっつけた。甘く淫らな摩擦をペニスに加えながら(さね)をつつきのめすと、 「ひっ、ん……っ!」  きゅうきゅうと(なか)が締まって、墓穴を掘る寸前までいった。とにかく今は、八つも年上の男性(ひと)が理屈もへったくれもなしに愛おしい。その裏返しで、鎖を弾ませてきらめく指環が、目障りに思えて仕方がない。 「なあ、俺と兄貴と……」  相性がいいのはどっちだ、なんて訊くだけ野暮だ。ジョイスと即答するに決まっていて、ただ小匙一杯……いや、三杯程度の妬ましさを覚えてしまうかもしれない。  衝動的に指環を咥えた。鎖にこすれてミミズ腫れが走ろうがかまわず、ぐいぐい引っぱりつづけると、 「あ、ぁああ……っー!」  森じゅうに響き渡るような嬌声に驚いたのか、野鳥が飛び去った。  痛みさえ快感にすり替わるのか、筋金入りの淫乱め。努めて毒づいてもヴォルフ自身、極上の美肉(うまじし)の前にひれ伏している。強く、弱く内壁がうねると精嚢の内圧が高まり、それでも崩落を迎える瞬間を一秒でも遅らせたいと望むほどに。 「すごい、きみの、また硬くなっ……あっ」 「『きみ、きみ』うるせえ。ヴォルフと呼べ」  ジョイスに対しては玲瓏とした声で、愛しい名前を口にしたはず。慰めてほしいとせがまれて全力で応えた以上、いわば慰め賃に他人行儀な呼び方を改めろ、と要求するくらいかわいいものだ。だが朱唇はよがり啼きにわななくばかりで金輪際、ヴォルフと囁きかけてくることはない。  俺ので悦んでいるくせにお高く止まって、意地でも名前を呼ばせてやる。執拗に核を突きしだいているうちに、不意に虚しくなった。  肉体は濃密に語り合っていても心が通わなければ、人形を抱いているのと一緒だ。昂ぶり全体に濃やかなもてなしを受ければ受けるほど、うそ寒いものを感じ、それでいて交接に溺れてしまう。

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