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第58話

「ん、も……もう、もう射精(で)るぅ、んー!」  緩急をつけて抜き差しすれば内壁の収縮ぐあいが、むずかるようなものへと変わる。波打ち、つぎに波打つまでの間隔が短くなるのを狙い澄まして、ひときわ荒っぽくかき混ぜた。 「あっ、ん、ああ……きみの、きみのを奥に、ぶっかけて……!」 「ちぎれるだろう、が……っ!」  放物線を描いて淫液が迸った。経験豊富な相手と渡り合って持続力で(まさ)ったのだから、初めてにしては上出来だ。ヴォルフは大仕事をやり遂げた気分で解き放ち、ところが。 「きみの……たった一回じゃ物足りないと言ってる」  余韻に浸る暇もあらばこそ、筒全体が雄蕊(ゆうずい)にローラーをかけるように蠢く。つながりを保ったまま細腰が揺らめくたびに深奥がぐちゃぐちゃとさざめいて、萎えるのを防ぐ。 「おい、少しは休ませろ」  達した直後はくすぐったい。ただでさえ全力疾走したあとのように呼吸が乱れ、なのに巧みにあやされると抑えがきかない。  シャツを剝ぎ取り、組み敷いた。花芯がほとんど真上を向くふうに細腰を抱え込み、両の足を左右の肩のそれぞれに引っかけさせて、ぶすりと穿ち抜く。  時が経つのを忘れて貪り合い、熱情の嵐が過ぎ去ったころには、日はとっぷりと暮れていた。甲虫が白濁がしみ込んだ苔に群がるさまは、さしずめ酒宴だ。  輝夜がニッカポッカの裾を地下足袋にたくし込んだ。思うさま腰を振ったあととあって、小鉤(こはぜ)を留めるくらいのことにもたつく。  もっともヴォルフも同様だ。中身はたかが薬草の籠を背負ったとたん、ふらついた。月齢十三ともなれば筋力が増し、ふだんは満タンの酒樽を担いでのける。だが全身がだるい。とはいえ、そのだるさは甘酸っぱい要素を含んでいて、むしろ心地よいものだ。  潮時、と帰路についた。夜目が利くヴォルフが先に立って、輪郭がおぼろになりつつある木々の間を縫っていく。 「あさって、月齢十五の月が昇るとメタモルフォーゼを遂げる。四つ足に変身する場面に立ち会わせてやってもいいぞ」    生まれてこのかた変化(へんげ)する過程を見せたことがあるのは、母親とジョイスのみ。なぜなら獣人同士であっても、よほど(ちか)しい間柄でなければ秘し隠すのが常識とされている。  即ち、あんたは破格の扱いをするに値すると暗に匂わせる誘い文句で、にもかかわらず生返事ではぐらかされた。代わりに問わず語りが宵闇にたゆたう。 「おれの生まれ故郷は辺境の地、ギルヨークだと話したね。ちょうど二十年前の夏、夜陰にまぎれて盗賊の一味が村を急襲し、男たちと老人は皆殺し、娘たちと子どもたちの運命は……推して知るべし」    ヴォルフは上の空で相槌を打った。しがない八番目とはいえ、仮にも王子が下手(したて)に出てやっているのに軽くあしらうとは何様のつもりだ。それはさておき輝夜の興味をひくことができる話題は、なんだ?

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