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第77話

「あっ、舐めるのは……!」 「駄目だって、もったいぶるタマかよ」  尻たぶを鷲摑みに割り広げて、ずりあがっていくのを封じる。並行して、ずぶりと舌を突き入れた。 「違う……きみは誇り高くて奉仕するのが似合わない、そんなところを舐めてもらうのは心苦し……ん、ふぅ……!」 「うるせえ。あんたは可愛らしく、あえいでりゃいいんだ」  桜桃の種と実を口の中でより分けるふうな舌づかいで、ねっとりと潤いをほどこす。 「やめて、くれ……ん、んっ!」 「俺で満たされたいんだろ。だったら、素直にゆだねろ」  そこが咲き匂うまで、舌が届く範囲を隈なく愛おしむ。やがて、なまめかしく色づいた(なか)を覗かせるまでになった。ヴォルフのほうもジーンズを突き破らんばかりに猛り立ち、前をくつろげるのもひと苦労だ。  壁にもたれて胡坐をかいた。背中と胸が密着する形の体位で、すんなりした下肢を割り開いておいて、突きあげる要領で貫く。 「ぅ、あ、ああー……っ!」 「締めつけるな、挿入(はい)れないだろうが」  遡るほどに無数の吸盤が吸いついてくるような感覚が強まり、毎度のことながら自制心を総動員する必要がある。いつにもまして熱く、妖しく蠢いて危険だ。途中で爆ぜてしまわぬよう、やや性急に番いおおせた。  貝殻細工のように繊細な造りのヒトの耳たぶを食んで、ふと思う。この場面で囁くにふさわしい科白はなんだろう。仮に恋人同士なら詩のひとつも捧げるのだろうか……そこで輝夜が、くすりと笑った。 「何がおかしい、侮辱する気か」 「きみは勉強熱心で優秀な生徒だと思って。こっちの分野の手ほどきをしたのが、おれなんかで可哀想だけど」 「正直なとこ、俺は、あんたにとってどんな存在なんだ」    ただの性欲の捌け口、ジョイスの代用品、もっと技巧に長けた相手が見つかるまでのつなぎ──等々。それとも〝特別な何か〟が輝夜の中で芽ぐみ、育ちつつあるのかもしれない、と期待するだけ無駄なのか。 「きみは……そうだね、分不相応な贅沢品みたいなものかな」  はぐらかされたように感じた。こちら向きに顔をねじ向けさせて朱唇を奪う。この、摑みどころのないヒトと心が通い合っている、という甘酸っぱくもほろ苦い幻想を抱くことが許されるのは、分かちがたくつながっている瞬間(とき)のみ。刹那に消え去るからこそ、一滴残らずそそぎ込みたくなる。  金輪際、俺から離れられないように雁字搦めにしてやりたい。荒ぶる気持ちを反映して、尻尾がほっそりした肢体に巻きつく。そして深奥のその先まで征服する勢いで、力任せに突きしだく。

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