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第88話

 輝夜は尊くも眩しいものを目の当たりにしたように睫毛を伏せた。一拍おいて、きっぱりと顔をあげた。 「護ってくれるより手助けしてほしい。対等の立場で」 「よし、決まりだ。冒険の旅に出かけるぞ」  輝夜の指示に従って坂道をのぼり、王宮を中心に放射状に延びる主要な通りをいくつか駆け抜けた。やがて鉄柵を張り巡らせた建物群が前方に現れた。それは王立学院の校舎だ。  鉄柵を乗り越え、昼間は市民に開放されている広場を突っ切り、敷地の外れまできた。ぽつりと霧の底にうずくまる、かまぼこ形の建造物がそこに待ち受けていた。 「暢気に道草食ってる場合か。山越えするんだろ、急がねえと夜が明けちまう」 「ここは飛行艇の格納庫。ジョイスの指揮のもとで開発集団が建造にたずさわった」  飛行艇、とヴォルフは鸚鵡返(おうむがえ)しに呟いた。首をかしげつつ、輝夜につづいて格納庫に入ると、ずんぐりむっくりした妙ちきりんなものが鎮座していた。  腹に車輪をはめ込まれた、奇怪で巨大な鳥が羽を休めているように見える。好奇心を刺激されて、ただし、おっかなびっくり近づいて観察をはじめた。  棒状の鉄を折り曲げて枠を組んだうえから、帆船で用いられているそれと同等の、いや何倍も丈夫な帆布を()ぎ合わせたものでびっちりと覆っている。胴体の両脇から、楕円形を真ん中で切り分けたような形の翼が突き出している。  本体の前面は六割がたガラス張りで、覗いてみると運転席だ。座席はふたつ、その後ろには小型の(かま)が据えつけられていて、バケツに山盛りの石炭は飛行艇なる乗り物の燃料とおぼしい。  輝夜が秘蔵の品をお披露目する手つきで翼を撫でた。 「改良機が完成にこぎ着けたと小耳に挟んでね。あとは霧が出るのを待つばかりだった、やっと条件がそろった」 「つまり、どういうことだ。詳しく説明しろ」 「石炭を焚くと水蒸気が出る仕組みを利用して浮力を得る、この飛行艇を拝借してムストワへ行く」  ヴォルフは間の抜けた相槌を打った。こんな荒唐無稽な答えが返ってくるなんて、恐らく予知能力者ですら予見しえなかったはずで、第一、脳みそのほうが理解するのを拒む。  ガラスにへばりついて運転席──正しくは操縦席というのだとのちほど教わった──を再びまじまじと見つめた。理論上は可能でも、その性能は未知数の代物(しろもの)を駈って? 

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