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第95話

   衝撃に次ぐ衝撃を受けてベルトがちぎれた。ヴォルフは座席から転がり落ちた。背中を床にまともにぶつけて一瞬、息が詰まる。それでもずりあがって、輝夜のベルトを外した。  ひどい耳鳴りがして躰がかしぐ。目をしばたたきながらハッチを見やれば、それは内側にひしゃげて、槍のように尖った枝の先が枠の間から突き出ている。  ぎいぎい、みしみしと飛行艇全体が軋み、大枝はもっと軋む。  もはや一刻の猶予もない。気を失っている輝夜を横抱きにして、尺取虫が進むごとく(かかと)で床を漕ぐ。ハッチからは脱出できそうにない、では風防ガラスを割るか。  金槌か、それに類するものを求めて艇内を見回し、息を呑んだ。壁材の帆布に石炭の火が燃え移り、ちろちろと炎が這う。しかも天秤棒の片一方に錘をぶら下げたかのごとく、機尾がてっぺんを向くふうに飛行艇が垂直になるまで傾いていく。  幹が悲鳴をあげて縦方向に裂けはじめた。そこで好運に恵まれた。食い入った枝がいわば梃子の役目を果たして、ハッチが開いた。  床がすべり台と化して、抗いようもなく躰を持っていかれる。ヴォルフは輝夜を片腕でしっかりと支えた。手が触れたものを反射的に摑むと、それはねじ曲がったパイプだ。下半身はすでにハッチの外にあり、宙吊りになった。  他の木に飛び移ろう、移れるか? 尻尾を振り立てて反動をつけ、ところがパイプが折れてしまい、体勢が完全に崩れた。  空中へと投げ出されるまぎわ、咄嗟に輝夜を腹に載せる形に躰をひねった。

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