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第105話

「おれの生まれ故郷……ヒトが細々とだけど平和に暮らしていた村も、とっくの昔に荒れ放題だろうな」  輝夜が畝にひょろひょろと生えている草を引き抜いた。作物だったものが野生化して、いびつな芋がくっついてきた。 「村は、盗賊に襲われたって言ってたな」  小さくうなずき、惨劇のもようを淡々と語る影が、砂利混じりの土に映し出される。 「雷雨の夜で襲撃者たちの雄叫びはかき消された。父さんや、伯父さんたちは鎌や(くわ)で果敢に応戦したけれど、荒くれものぞろいの狼族が相手じゃ敵いっこない。大人の男は全員、母さんを含めて女もほとんどが殺された」    埃っぽい風が濡れ羽色の髪と戯れる。やるせなげな視線が山の彼方を、過去をさまよう。 「おれみたいな東洋系の末裔は、ヒトの中でもとりわけ稀有な存在なんだ。だから闇の市場では高値で売り買いされる。田舎貴族が十二歳だったおれを競り落として屋敷につれて帰り、特注の檻につないで夜な夜な玩弄した。逆らったばかりに半月も寝込む目に遭わされたこともあったっけ。生き延びるためには自己暗示をかけるしかなかった。嬲られるのは好き、嬲られるのは愉しい──と」  口辺に苦い笑みを漂わせ、 「かくして定期的にオトコを摂取する必要に迫られる体質の誕生」  のっぺりと言葉を継ぐと、それが忌まわしい記憶の象徴であるかのごとく、ぐしゃりと芋を踏みつぶす。 「田舎貴族の、次の次の飼い主が植物学者で、薬草全般の知識を伝授しながらいたぶるのが趣味だったな。何年かしてお払い箱になって、流れ流れて首都に流れ着いて……」  執拗に芋を踏みにじるさまが痛々しい。そう思う心と裏腹、ヴォルフはただ爪先で土をほじくり返した。生き地獄を味わった日々は、輝夜の心に深い傷痕を刻みつけた。慰める科白も、ましてや同情なんか安っぽくて、かえって傷つける。  そうと察しがつくから言いよどむ。軽蔑して黙っている、と誤解されたら困るだろうが。そう自分を罵倒しても駄目だ。舌は口蓋にへばりついたままで、輝夜との間に横たわる、わずか一歩の距離が果てしなく遠い。  かたん、かたんと掘っ立て小屋の戸が開いて閉じた。新鮮な空気を取り込んで、すっきりしたように。 「ジョイスと、それからヴォルフ、きみと出逢った。人生は満更捨てたものじゃないね、おれなんかにも人並みの幸せな気分という贅沢なものが与えられるのだから」    長らく地中にあった種が芽吹き、すくすくと育って花を咲かせたような笑顔がこぼれた。今度はちゃんと躰が動き、かけがえのない、愛しい男性(ひと)をかき抱く。そして、ありったけの熱情を込めて語りかけた。

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