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第120話

 そう思うと唾液のひと雫、歯茎の起伏、下顎にひっそりと在る小さな触手のようなものまで、とっくりと慈しまずにはいられない。実際にそうする一方で、逃げを打つ気配を見せるたびに引き戻して、ぎゅうぎゅうと抱きしめる。  苦しい、と訴えるのとは裏腹に、おずおずと口辺をついばみ返してくる。輝夜の胸中では病みあがりの身を案じる思いと、焦がれ死にするほどヴォルフを欲する気持ちが、せめぎ合っている様子だ。  ヴォルフは一旦脇にずれると、腋窩(えきか)に顔を埋めていった。月齢四の段階では、封書と葉書の匂いを嗅ぎ分けるなんて芸当は無理だ。  しかし事、輝夜に関しては常に感覚が研ぎ澄まされる。この世でいっとう(かぐわ)しい香りを嗅げば嗅ぐほど、全身に精気が満ち満ちる。 「こそばゆいよ」  ずりあがるのを許さず、すべらかな頬を両手で挟みつけて、改めてくちづけた。もっとも舌を搦め取って吸いしだくはしから振りほどかれてしまう。 「舌に、いわゆる熱の花ができているよ。ざらついて、痛むだろう」 「じゃあ、舐めて治してくれよ」  ちゃっかりしている、と言いたげな苦笑が唇のあわいをたゆたう。それでも軟膏を患部に塗るさまを思わせて、舌が歯列をふりだしに這い進む。言いだしっぺが焦れて舌を絡ませていくのをいなしておいて、隅々まで濃やかになぞったすえに、ようやく応じてきた。  舌と舌で睦まやかに語らう合間に、シャツのボタンを外して胸をはだけさせた。象牙色の肌が匂やかに誘いかけてくるようで、あとからあとから生唾が湧く。  かつて闇市で競り落とされて以来、は折々に変わっても玩弄物という境遇に堕する身だった──。  そんな凄惨な過去が、ひと欠けらたりとも影響を与えなかった感があるほど清らかだ。乳首は、とりわけ愛らしい。触れしだい葉をたたむオジギソウにも似て、羞じらったふうに乳暈(にゅううん)に隠れているそれを、そっとつつく。 「ん……」 「あんた、こいつをいじるとメロメロだな」  耳たぶを食み、軟骨を甘咬みしながら囁くと、はにかみ屋のごとき粒がにわかに丸みを帯びた。指を舐めて潤いをほどこしたうえで、つまみなおす。  どちらの乳首も慈しみやすい大きさに育てるべく、ただし趣向を変えて、もう片方の粒は舌で掘り起こす。  淫技の初歩は輝夜から手ほどきを受けた。実戦で培った技巧に恋情が加われば、完璧だ。過去最高の、そして躰の芯に刻み込まれるような快感で蕩かしてあげられるはず。 「なあ、ねぶられるのと指でくりくりされるのと、どっちが好きだ」 「意地が悪い質問だ……ね……」

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