123 / 129

第124話

 だが、あなた任せを決め込んだ手前、押し倒すのはためらわれる。かたや尻尾はせっかちで、催促がましくもぞつく。  その間も輝夜は儀式に臨むように、厳粛な面持ちで菊座をなおもやわらげる。招じ入れる角度にこだわりぬいた結果、ようやく及第点に達したとみえて、静々と腰を沈めていく。 「あ、くぅ……んん、ふぅ」 「ぎっちぎちだな。いっぺん抜いて顔に跨れ、ふやけるまで舐めてから仕切り直しだ」 「だい、じょうぶ、ゆっくり、する……」  新たな薪に火が移り、紅蓮の炎が、愛のいとなみに花を添える。しどけなくシャツがまとわりつく裸身が照り輝いて、ヴォルフは息を呑んだ。  ジョイスの弔いの夜に出逢った当初、輝夜は〝亡き兄の恋人〟にすぎなかった。  ところが、そうある宿命(さだめ)であったように抗いがたく惹かれ、紆余曲折のすえに自分の気持ちに正直になった現在(いま)は、愛の(しもべ)と名乗るにやぶさかでない。  そう、はるばる旅してきたのも恋情が熟成し、ひいては至純のものへと昇華されるうえで必要なことだったのだ。何十年か先の俺が、天寿を全うするに際して墓碑に刻んでくれと言い残す銘は、きっとこうだ。  恋に生き恋に殉じたヴォルフ・リュダール=ラヴィア、最愛の男性(ひと)と共にここに眠る──。  まじろぎもせず輝夜を見つめ、口を真一文字に結んで乳首を爪繰る。ころころと転がし、こね回して、頑なだった入り口がゆるんだ隙をついて攻め込んでいく。 「あっ、はぁ、ん、あ、ああ……っ!」  肉の環が狭まって押し返しにかかるたびに、視線で懇願する──すべてをよこせ──。  じりじりと遡って番いおおせるころには、心の中に鎮座する〝愛しい〟という宝石を収めておく壷が、満杯になるのを通り越してザラザラとあふれ返っていた。  内壁が、しなしなと吸いついてくる。脊梁を彩る飾り毛はもちろん、尻尾の斑紋も、まだらに抜け残った耳の毛も、あまりの気持ちよさに一斉に逆立った。  鳩尾がへこみ、膨らむのに合わせて花びらがすぼんでは、めくれる。指一本くぐらせるのもやっとというほど、きつきつだった陰門が、いじらしくも大胆に俺の寸法に広がって、と感涙にむせぶようだ。  愛していると百万回、告げても告げ足りないくらい情熱が燃え盛っているなかで睦み合うのは初めてのことで、歓びもひとしおだ。 「あんた、俺のお守りは大変だろ……いろいろ感謝してる、この将来(さき)もよろしく頼む」 「へりくだるなんて、きみらしくもない。神妙な科白が飛び出すと調子が狂うよ」    くすりと笑われて、ペニスを(たなごころ)にくるんで返す。刺し貫いた直後は、いつも異物感が(まさ)ってそうなるとおり、幾分うなだれたのを優しくしごいて蜜を塗り広げる。  急に涙もろくなったように睫毛が湿り、気づかれる前に手の甲でぬぐった。

ともだちにシェアしよう!