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エピローグ

    エピローグ  東西南北のそれぞれの隅と、王宮内に一宇。ハネイム王国の首都ウェルシュクには、計五宇の鐘楼が建っている。  ラヴィア家の紋章を織り出した旗が緑風にそよめく。マロニエの花が咲き乱れて街路を彩り、あたり一面が薄紅色を帯びるなかで、五つの鐘が一斉に鳴り渡った。  それは慶祝の鐘で、間もなく戴冠式が執り行われる。  予防薬の開発にこぎ着けるまで、耳欠け病は二年余にわたって猛威を振るいつづけ、国家の屋台骨が傾きかねないほどの打撃を受けた。肉親や友人が病に(たお)れた国民にとって、戴冠式は久しぶりの明るい話題だ。  新国王の意向に沿って簡素なものだが、のちほど行われるパレードを拝もうと、沿道は押すな押すなの大にぎわいを見せていた。  そろって小旗を打ち振りながら、彼ら、彼女らは驚きを交えて囁き交わす。今度の王さまの母君は豹族なんだろう──と。  そう、王位に()くの純血の獅子族に限るというのが建国以来の不文律だった。ところが第一から第四までの王子は耳欠け病を患い、没した。また第五王子は国王暗殺を図った(かど)で流罪、同じく第六王子は精神を病んだことから幽閉の身となった。  これによって第八王子のヴォルフが王位継承者の一番手に繰りあがった。相前後して先のラヴィア王が譲位する旨、肚を固めた。  俺は国王の器じゃねえ、だいたい事実上、王室を離れた身だ、とヴォルフは突っぱねた。  しかし宰相以下、 「あなたさまが拒めば、叔父君やお従兄さまを担ぎだす向きがありましょう。国情がこれ以上、乱れてもかまわぬと申されますのか」  入れ代わり立ち代わり説得しにくる。結局、情にほだされたというか、根負けしたというか。  気持ちがぐらついたところで、 「きみは行動力も指導力もあって、国を()べる素質十分だ。おやりよ」  輝夜に背中を押されたからには、できないの一点張りでは男がすたる。ならば、と即位するにあたって条件を提示した。  その条件とは、輝夜を保健大臣に登用すること。ヒトごときを要職に就けるなど、と一蹴されたがヒトの地位向上がかかっている。  ヴォルフは一歩も譲らず、ついに諾と言わせたのだ。  今を去ること一年と数ヶ月前。坑道をふりだしに、そして輝夜の子ども時代のおぼろな記憶を手がかりに、ハネイム王国の歴史から消え去った彼の故郷をめざした。  山岳地帯へ至る道のりは険しく、時には雪洞を掘って吹雪をやり過ごし、時には崖から落ちそうになったが、執念が実った。  草ぼうぼうになり果てた村の跡地にたどり着き、さらにそこからひと山登った湖の(ほとり)で例の薬草を千株ばかり発見しおおせたころには、季節がひと巡りしていた。

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