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学校のトイレで

狭い狭い四角の空間で、きつく抱きしめたままくちびるを奪う。身をよじられるので逃げられないよう強引に力をくわえつつ、舌を差し込んでじんわりと熱い口内を舐った。このままならすぐに理性も乾くだろう、もう少しで丸め込める、と思ったのだが、伊勢ちゃんは息継ぎのように口を離し、その隙にすばやく非難の声をあげた。 「だめ!」 「……なんで?」 「なんでって……分かるでしょ、学校だから、ですけど!?」 学校内、人のいない校舎のトイレで、小声は誇張して大きく響いてしまう。抱きしめられたままの伊勢ちゃんは身をひねりつつ、精一杯の抵抗を見せるが、俺にはまるで響かなかった。 「……抵抗したいならもっと納得できる理由教えてよ」 「いや十分納得できるでしょ……!?」 「全然納得できない。学校だからなに?」 「はあ……!?」 怒られようとも睨まれようとも分からないものは分からない。真っ直ぐ言い切れば、ぱくぱくと口を開きながら混乱をあらわにする伊勢ちゃんは、思考が追いつかないのか言葉も動きも止めてしまった。これではコミュニケーションも難しいので、続く言葉を待つあいだに、股の中心をがっしりと掴んだ。 「あ、ちょっ!」 「伊勢ちゃんだって反応しちゃってるじゃん。このままにしちゃっていいの?」 「や、やめてくださ……」 「ここでやめちゃったらつらくない? 下着も汚れちゃうでしょ」 「……」 「いいの?」 優しく畳みかければ、伊勢ちゃんが抵抗の力さえゆるめ、いよいよ思考停止してしまったのが分かった。フリーズした脳を溶かすため、俺はいったん身体を離した。そして自分のベルトをゆるめ、ジーンズと下着をずらす。舌を絡めるだけで勃ちあがっていた性器を見せると、伊勢ちゃんの困ったような目がその部分と、俺の表情とを往復する。それ以上は、あえてなにも言わずにいた。それでもいい子で待っていれば、伊勢ちゃんはしぶしぶ、といったように俺に倣い、下着をずらして少し硬度を増した性器を取り出した。 「かわいい」 「ん、あ……」 「伊勢ちゃん、一緒にこすって」 それぞれの性器を重ねるように密着させ、こすり合う。迷っている右手をつかまえて性器に伸ばすと、ためらうように動きはじめた。伊勢ちゃんの手が動きやすいよう、腰を中心に身体を引き寄せ、ついでに臀部へ手を伸ばす。双丘を割るようにがっしりとつかむと、伊勢ちゃんが抵抗の声を漏らした。その声に行く手をはばまれないよう、すぐに狭い部分へ指をあてがう。 「あ、だっ……」 だめ、と言いたかっただろうに、飲み込まれ消え失せた「め」がむなしい。狭い部分に少しずつ割り入れば、声を出せない伊勢ちゃんの代わりに身体が何度も跳ねながら反応を見せる。そのままもぐりこませた中指の先を少し動かすと、みるみる目もとに涙が溜まっていく。いやだと思っていても心は拒否していても、中をこすられたら泣きそうになってしまう、作りかえられた身体。興奮する。 「はあ、伊勢ちゃん、かわいい……」 「あ、あぅ、ん」 「きゅうきゅう吸い付いてくる、かわいい。興奮してるの?」 分かりきったことをあえて言葉にすればさらに締め付けがキツくなり、こらえ切れない吐息とあいまいな甘い声がくちびるからぽろりぽろりとこぼれる。トイレのタイルに落とさないよう、すくいあげるように「声出していいよ」「かわいいね」「好き」「もっと声聞きたい」と声をかければ、びくんと大きく身体が跳ねた。遠くに誰かの笑い声が響き、そして遠ざかっていった。伊勢ちゃんは、ボリュームをしぼったまま、うなるような声をあげている。 「っ……い、い……っ、ふっ」 「いく?」 子どもに言うように優しく問いかけると、コクコクと必死に頷く。いよいよ絶頂の階段を駆けあがるとき、伊勢ちゃんは声を出してはいけないという現実と、それによってもたらされる果てない羞恥と快感に飲み込まれ奥歯を強く噛む。ぐっと目を細めて、身体も脳も射精のためにその他一切の情報を排除していくのが分かる。 だからこそ、俺は左手を伸ばした。伊勢ちゃんの顎を下から支えるようにつかみ、うつむきかけた顔を持ち上げ正面で固定する。 「っ、あっ、?」 伊勢ちゃんは訳も分からないまま、俺の目を見ながら身体を震わせ射精した。困惑と興奮が混ぜ込まれた瞳から熱が移り、ああこの子イッちゃったんだあんなにだめだめ言ってたくせに、と考えているうち俺もあっという間に達してしまう。 「ん、は……っ!」 達したあと、息を整えながらもう一度くちびるを重ねると、至近距離からじゅわっとした目で見つめられた。くちびるを離してトイレットペーパーを引き出し、ふたりが吐き出した精を処理しているあいだに、ぼんやりとした表情を浮かべていた伊勢ちゃんが少しずつ理性を取り戻したらしい。ふと思い立った、というように、不思議そうにつぶやいた。 「……え? な、なんなんですか……」 「ん、なにが?」 「なんでさっき、あご、つかんだんですか……」 イく瞬間の挙動に対して言っているのだろう。しかし残念ながら、答えられるような意味などない。ただ、学校というシチュエーションと、どこかに感じる人の気配にばかり興奮してイかれるのは癪だっただけ。せっかくなら、俺の顔を見ながらイッてほしかっただけ。 「まあいいや……。も、いきますよ……授業、はじまっちゃうし……」 なんと答えるべきか悩んでいるあいだに、伊勢ちゃんは着衣を整えさっさと鍵を開けて個室を出て行ってしまった。きっと恥ずかしいだけだ、と分かっていても、こんなに露骨な対応をされてしまえばやっぱり寂しさも湧いてくる。待ってほしい話を聞いてほしい俺の言葉に耳を傾けてほしい。伊勢ちゃんと付き合っている、学校で好き勝手させてもらっているという事実だけで十分なはずだったのに、いつのまにか欲深くなってしまうものだ。身支度を整え後を追いながら、悪戯心で声をかけてみる。 「今度は学校で、指じゃないやつもいれさせてね」 「ふざっけんなバカ」 切り返しは速い。笑ってしまった。それに気づいて「なに笑ってんすか」と怒りながら洗面所で手を洗う後ろ姿がもう、かわいくて仕方ない。照れた顔を本人は隠しているつもりだろうけれど、鏡に映っているからすべてばれている。授業に行かなきゃいけないのは分かっているけれど、ああもういっそここで後ろから抱き着いてひんむいてぶちこんでやりたいな。ごめんね。

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