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おもちゃで遊ぼう

旅行に行きたいし資格をとりたい、週末は映画を見に行きたい。それから恋人といちゃいちゃしたい。大学生はやりたいことが多すぎるから、ひとつひとつ片付けていかなければならない。 「ねぇ伊勢ちゃん」 「……」 「伊勢ちゃん?」 「……なんか嫌な予感する……」 裸の伊勢ちゃんに覆いかぶさり、名前を呼んだだけだというのに、想像力豊かな伊勢ちゃんは俺の声色だけで隠された意図を汲み取ったらしい。 「俺さあ、やりたいことあるんだ」 「そっすか、良かったですね」 「やっていい?」 「だめです」 「どんなことかも知らないくせに」 「……どんなことですか」 しぶしぶ、というようすで、嫌そうな顔をしながらもきちんと訊ねてくれる。優しい人だ。だから俺はその優しさに甘えてしまう。いちど身体を起こし、あらかじめ近くに隠しておいたものを取り出した。 「これ使いたい」 お菓子のようにチープな薄いピンク色のローターを見せると、伊勢ちゃんはいよいよ顔をしかめた。 「……いつの間に買ったんですかこんなの」 「伊勢ちゃんがいない隙に買ってる」 「俺の目盗んでこそこそこんなもん買って、虚しくなりませんか」 「ならない」 「堂々と言ってんじゃねぇ」 「使うとこ想像して興奮してるよ」 丸いスイッチをくるくると回しながら答えると、ピンクの先端が小さく震えはじめた。伊勢ちゃんは理解できない、というように、じっとりとした目で俺を見あげている。 「……ほんっとド変態ですね」 心底呆れたように吐き捨てる、その言い方には分かりやすい棘があった。弱々しく震えているローターを、まだ反応していない伊勢ちゃんの性器の先端に押し当てる。 「んあっ!」 「変態でごめんな」 「ん、う……っ」 「でもさあ」 先端をぐりっとなぶったり、筋につるつると滑らせたり繰り返していると、伊勢ちゃんの吐息が濡れ始めた。落ちつかないように頭を動かし、腰も揺れる。性器が、徐々に固さを持ち始める。 「でも伊勢ちゃん、これ見せられた時からちょっと期待してたでしょ?」 「ふ……っ」 「どっちが変態なんですかねぇ」 伊勢ちゃんの足をすくい上げ、膝を彼の胸に引き寄せるような形にすると、小さなその部分が目に入る。ローターの先で入り口付近をくすぐると、反応して小さな部分がきゅんと動いた。 「ここひくひくしてる」 「う……っ、やっ……!」 「これ、入れて欲しい?」 ローターの先端を入り口にぴたりと当ててみる。伊勢ちゃんの身体がびく、と揺れた。伊勢ちゃんは反射的に揺れた身体を否定するように、枕に載せた頭をぶんぶんと振った。 「入れない?」 「いっ……入れない……っ」 「そうか」 俺は素直にローターのスイッチを切った。伊勢ちゃんは息を吐き、ぼんやりと天井を見上げている。身体の上を滑る微量の余韻に酔っているようだ。 「入れてみたいんだけどなぁ」 「……入れません……っ」 「入れたら伊勢ちゃんも絶対気持ち良くなるよ?」 「知りません……っ」 「入れたいなぁ」 しつこい俺に呆れ切った伊勢ちゃんは、顔を背け唇を噛みしめ、だんまりを決め込んでしまった。俺の願いには応じません、という意志を表明しているつもりだろう。けれど伊勢ちゃんのやわらかい意志は、セックスの熱に浮かされた俺の前でなんの意味もないのだ。強気な表情を見下ろしながら、狭い箇所にローターを押し込んだ。 「うぁっ!?」 「あー……とぅるって入った。エッロ」 「ちょっ……入れないって言ってるじゃないですかっ……!」 「ごめん、間違えて入っちゃったんだよね」 伊勢ちゃんは少し頭を浮かし、俺を睨みつけている。あけすけな嘘と心ない謝罪を返しながら、伊勢ちゃんが文句を言いはじめる前にスイッチを入れた。 「んあっ!」 途端、ぶぶぶぶぶぶ、と下品な音が伊勢ちゃんの中から聞こえはじめた。伊勢ちゃんは何か言いたげに唇を開いたまま、もどかしそうに身体をくねらせるばかりですっかり言葉を遣えなくなってしまった。代わりに零れたのは戸惑いの残る嬌声だった。 「高岡さっ……、あ、うぁっ!」 「ん? なあに?」 「ちょっ、あっ……高岡さっ……ん、あ!」 「うん? どうしたの?」 細い導線を伝い、先端の震えが俺の手元まで伝わる。伊勢ちゃんは俺に何かを伝えようと懸命に名前を呼ぶ。しかし続くはずの俺を責める言葉は込み上げる快感に流されあやふやになり、これではただ名前を呼んでいるだけだ。喘ぎながら名前を呼ぶ姿はあまりに健気で、いじめたくなってしまう。 「ひあ、た、高岡さっ……、ん、はっ」 「うん? なあに、どうしたの伊勢ちゃん」 「も、やだぁ……っ、これっ……」 伊勢ちゃんの小さな場所から、ピンク色の細い紐が伸びている。それは入り込んだ内側を想像させ、視覚にも興奮を促す。伊勢ちゃんの真っ白な太股と、子供じみたピンク色のコントラストは不健全すぎる。 そんなに必死になって何度も俺の名前を呼ばなくとも、伊勢ちゃんの「ローターを抜いて欲しい」という訴えは十分届いている。しかし俺は小首をかしげながら、いつまでもしらじらしくとぼけ続けるのだった。 「ん? なに?」 「だからぁっ、ふっ……も、やだって……!」 「何が嫌? どう嫌?」 「だからっ……!」 「言いたいことあるなら、ちゃんと言わないと」 入れている時間が長くなるにつれ、伊勢ちゃんはどんどん余裕をなくしていく。性器の先も震え、液をこぼしている。それでも、声を上げ達するほどの快感ではないらしい。やんわりと込み上げる感覚に困惑したように、膝を立て足の裏をシーツにこすりつける仕草が懸命で可愛らしい。 「も、これ……っ、抜いてください……っ、んっ」 「抜いてどうするの?」 「ふっ……とにかく抜けって……っ」 「抜いた後どうして欲しいか言わないと抜かない」 少し、口調を強くした。同時に、細い線をぴんと引っ張った。内部で少し動いたそれに、伊勢ちゃんはまたぴくりと反応した。 「もっ……やだってばぁ……っ」 「うん? だから何がって聞いてんの」 「もーやだ……、っあ!」 「やでしょ? だから俺伊勢ちゃんのために聞いてあげてんだよ」 「ふっ……高岡さっ……」 「なに? 俺がなに?」 必死に言葉で抵抗し、楯突いていた伊勢ちゃんが、俺には勝てないのだと悟る瞬間は何度経験してもたまらない。本当に絶望した顔で涙を流し、とつぜん甘えたような声で懇願するのだ。 「これ……っ、やだから……、高岡さんのがいい……っ」 俺は身体を折り伊勢ちゃんの額に口付けた。伊勢ちゃんは切実な呼吸を繰り返して震えている。 スイッチを切った。線を引っ張り、ピンクの先端をつるりと抜いた。液にまみれすこし熱がうつったまるい部分は可愛らしい猥雑さを持っていた。そして、指先で少しほぐしたあと、昂っていた性器を押し込んだ。 「はっ、あっ!」 「ほんと伊勢ちゃんは変態だなぁ……」 「あ、んぅ!」 「俺のが好きでしょうがないんでしょ?」 伊勢ちゃんは顔中の筋肉を弛緩させ、とろとろの表情で俺を見上げている。そのくせ、内側は離さないと告げるかのように、ぎゅうぎゅうとしつこく俺を締めつけてくる。 「あ、ふぅ、んぁ!」 「……好き?」 「んっ、すき、すき」 「なにが好き?」 「高岡さっ……んぅ、高岡さん、すきっ、すき」 伊勢ちゃんは泣きながら俺の名前と「すき」を繰り返し、貪るように手を伸ばしてしがみついてくる。顔を寄せると、耳に噛みついてきたりもする。それは込み上げる衝動を不器用なりに消化する手段だ。かわいくて仕方ない。 「はぁ……伊勢ちゃん……」 「んぁっ! 高岡さぁん、すき……っ」 「もっと言って」 「すき、すきっ、すき……っ」 すき、という言葉と、内側の緩急がぴったりと重なっている。この瞬間伊勢ちゃんは、脳でも身体でも俺を愛してやまないのだろう。 「すき、だいすきっ、んあっ」 「俺も……」 「あ、すき、あ、す、すきぃっ」 伊勢ちゃんの声から余裕が消えていく。それでも最後の力を振り絞るように、懸命に俺にすきだと伝えている。 そして、ローターで散々じらされていた伊勢ちゃんは、時間をかけて大量の精液を吐き出したのだった。 —- 「俺シャワー浴びるけど、伊勢ちゃんは?」 「……」 「伊勢ちゃん?」 簡単な処理だけでは身体中の汗や液を拭いきれない。伊勢ちゃんもおなじように不快だろうと掌を差し伸べたが、伊勢ちゃんはうつ伏せて枕に顔を埋めたまま動かない。なんかの動物みたいでかわいいなあと思って頭を撫でたら、乱暴に振り払われた。 「伊勢ちゃん?」 「……」 「おーい」 「……」 「セックス中に理性ぶっ飛んじゃっていつもは言わないようにしてるのについすきすきって本音言いまくっちゃうことは恥ずかしいことじゃないから大丈夫だよ、安心しろ」 うるせぇ、と言われると思っていた。むしろそう言われるような言葉をあえて選んだ。しかし伊勢ちゃんはなおも顔を埋めたまま動きもしない。 とりあえず先にシャワーに行ってしまおうとすると、俺の動きを感じた伊勢ちゃんが枕の隙間からぽそりと声を漏らした。 「……あれはああいう空気だったから言っただけで、本音じゃないですから」 「うん、そうだよな。とりあえずシャワー行こうか」 振り返り見ると、伊勢ちゃんはすこしだけ顔をずらし、左目だけで俺を見ていた。枕に埋もれた顔半分と、覗いた半分は想像通りの表情をしていた。 「……そういう対応がいちばんむかつくんですけど」 俺の手を握り、身体を起こしながら不平を垂れる。ああそうだ、伊勢ちゃんのそういう表情が、俺はいちばんすきだ。

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