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なめっこ

布団に寝て携帯をいじっていると、にやけた高岡さんが覆いかぶさってきた。なんですか、と言うより先に耳の輪郭を舌で確かめられ、なんですか、を聞くまでもなく意図をくみ取った。 「ねぇ伊勢ちゃん」 「いやです」 「……まだ何も言ってないじゃん」 「大体分かりますもん、言ってみてくださいよ」 「エッチしよ」 「いやです」 ぐい、と胸を押しのけて言うと、高岡さんは口を尖らせてすねた表情をしてみせた。そんな可愛こぶったってだめです。 「なんでー?」 「だって……めんどくさい……」 「お前その感覚危ないぞ、セックスレスになるぞ」 「いや別にそういうんじゃなくて……だって俺大変なんですもん、後ろ使うと身体めっちゃ疲れるし」 苦労を弁えず勝手なタイミングでスイッチ入って、後先考えず覆いかぶさってくる高岡さんには分からないでしょうけど、というニュアンスを込めた眼で見上げながら言うと、高岡さんはうんうんと頷いた。 「分かった」 「分かってくれました?」 「じゃあ舐めっこしよ」 「……は?」 「そっちは遣わないからお互いに舐めっこしよう。それなら面倒じゃないでしょ? しかもお互いに気持ち良くなれるし。いいじゃん?」 いやそういう問題じゃない、なんて正論がこの人に通じるはずがないのだ。高岡さんはあいかわらず笑っている。 --- 「っ、は……」 「……」 「……うっ……」 先端を、高岡さんの舌先でぐりぐりとなぶられる。漏れてしまう声を抑えきれず、俺は膝と肘をついて高岡さんに被さった状態のまま、ゆるく勃ち上がった性器に顔を寄せるばかりでうまく行為を進められない。 「……ちゃんと舐めてよ」 「あっ、はい……」 催促されようやく口に含んだ。口内にじわ、と液の味が広がって、思わず腰がゆらめいてしまう。高岡さんが笑っているのが、顔を見ないでも分かった。 「えっろ」 感想のように言われてしまっては抵抗できない。一層深くまでくわえこみ、舌を動かす。 「んっ、んっ……」 「……っ……」 「んぅ……」 高岡さんはいつもじゅるじゅると音を立ててくわえるので、耳を責められているので羞恥に煽られて仕方ない。感覚でも視覚でも聴覚でも俺を責め立てて、逃げられないような場所にどんどん追いこんでいくのだ。切羽詰まるといやでも解放してしまうという、俺の性質をよく知っている。理解されているというのは、時々恥ずかしいことだ。 「んっ……」 「ほら、伊勢ちゃん」 うつ伏せた姿勢のまま、ふと下半身の方に目を向けると、高岡さんの顔が逆さに見えた。高岡さんは口角を上げ蔑むように俺を見下ろし親指で敏感になった先端をぐりぐりと嬲る。 「ふっ、うっ……」 「ほら、口止まっちゃってるよ」 催促に応じない俺にしびれを切らしたのか、高岡さんはぴくぴくと腰を動かし、昂った性器を俺の頬に押し付けてくる。 「んっ、やめてくださいっ」 「ほらほら、伊勢ちゃんばっかり気持ちくなってずるいじゃん」 「……俺だって……、気持ち良くないです……っ」 ゆるく頬を打つものから逃れるように顔を背けながら吐き捨てると、高岡さんの手と唇がいなくなった。束の間の空虚に浸る間もなく、唐突に奥まった箇所に指を埋められた。 「ふぁっ!」 びく、とこわばる身体を責めるように、高岡さんの舌がまた現れた。じゅうう、と大袈裟すぎるほど音を立てて吸われ、無遠慮な指先にかきまわされる。細かい波が足元から這い上がり太股が震え膝に力が入らなくなる。 「ちょっ、そっちは遣わないって言ったじゃないですか! っあ!」 「えー、覚えてない」 「……っ!」 「……それよりさあ、本当に気持ちよくないの? 伊勢ちゃん」 「……んっ、うあっ……」 「それはごめんねぇ、気持ち良くさせてあげれなくって」 高岡さんは口も両手も丹念に動かしながら、合間に言葉という武器まで振りかざす。いよいよ逃げ場を失った俺は、込み上げる声をこらえながら性器をくわえこむことしか出来ない。口に含んだまま、鼻や唇の隙間から漏れる声は嗚咽みたいに響く。俺は一層弱者になってしまう。 「うっ……うっ、うぁ……ふぅっ……」 「気持ち良くないって言う割には、こっちもこっちもぐちょぐちょになってるけど」 「ふっう、うっ……んっ……」 波はぞくぞくと駆けのぼり、腰に到達して腰をゆらゆら暖め今度は背中にのぼる。必死に舐めようとするけれど、口もとがだらしなく蕩けてしまってうまく出来ない。そうしている内に波は更にのぼってくる。 入り込んだ指がとある箇所を突いたのと、そのあいだも性器に添えられていた手が水音を立てながら加速したのは同時だった。 「んあぁっ!」 思わず、了解もなくぶちまけてしまった。慌てて跨いだ膝を戻し、身体を起こし見ると、布団に横になった高岡さんの頬に、白い精液が一本の線のように横断していた。 「あらあら」 「ご、ごめんなさいっ!」 ティッシュの箱を引き寄せ乱暴に数枚引き抜き、高岡さんの頬に押し付ける。やわらかなティッシュの中に生温い感覚が収まる。高岡さんは身体を起こし、苦笑いしている。 「す、すいませんでした、あの……俺、なんか、つい……思わず……」 「いや、いーけどさ」 「いや本当……すいません」 「いーって」 顔に精液をかけるだなんて、AV女優じゃあるまいし、男性からしたらきっと屈辱的な行為だろう。そうでなくても高岡さんは達する前に確認したがるタイプなのだ。自分でもティッシュをとり顔を拭いている高岡さんと向き合う形で正座し、どう繕えばよいか分からず俯いていると、ふいに高岡さんが立ちあがった。 「かけられたことはいーんだけど、ね?」 「……はい?」 「俺もかけていいよね?」 驚いて返事をできずにいると高岡さんが俺の前に仁王立ちし、左手で俺の後頭部を抱え込んで右手で昂ったものを擦り始めた。高岡さんの局部は、丁度俺の顔の高さだった。 「俺もかけられたんだし、いいでしょ?」 「えっ、ちょっ」 「許してあげるから俺にもさせて」 「えっ、えっ、あのっ」 「あー……でそう、でる、あっ……」 状況が飲み込めず、目の前で動く右手の乱暴なはやさに迫られ混乱していると、抱え込む左手の圧が一層強くなった。反射的にぎゅうと強く眼をつむったとき、頬になまぬるい液がぶつかる感触があった。 「……はぁ……っ」 「……ん、な、」 何か言おうと口を開きかけたけれど、重力にそってつるつると顔面を滑る精液が唇に引っ掛かるのが分かり、口を開けなくなってしまう。言葉を奪われた俺は、息を乱している高岡さんへ訴えかけるような目を向けるしかなかった。高岡さんは息を荒くしたまま、俺の頬を両手で掴み、いやらしく見下ろして笑っている。 「うわ……すげぇえろいことになっちゃってるよ伊勢ちゃん」 「……っ」 「すげーかわいー……」 蛍光灯の光を背負った高岡さんの顔には陰りが落ち、一層淫猥なあやしさを携えていた。ぞく、と背筋が震えた。 「これでお互い様だね」 AV女優じゃあるまいし、顔にかけられるだなんて屈辱的な行為だ。 分かっていたのに、そして実感も伴っているのに、なぜか吐き出したばかりの俺の性器はふたたび熱を取り戻していた。

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