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第4話
(あっという間に18歳と、25歳だもんな……)
回想に耽っていた蓮人は、春樹に「ん?どした?」と顔を覗き込まれ、ハッと我に返った。
オニキスを彷彿 させる黒目がちな瞳に、ドキリと胸が高鳴る。
「何でもありません。……春樹さんと出会って、もう10年経つんだなって」
「だな。はっえーよなー!色々あったけど、お前がこうして元気に育って、家元に選ばれて。本当良かったわ」
春樹はシミジミと言い、慈愛 に満ちた眼差しでこちらを見据える。
それを受け蓮人は、複雑な想いを抱いていた。
(やっぱり春樹さんにとって俺は、『弟』でしかないんだ)
そう痛感し、グッと拳を握り締める。
ー今、春樹に交際している相手は居ない。
というより、今まで居たことがない、と思う。
恐らく男性でも妊娠出来るという特異な体質ゆえ、臆 しているのだろう。
例の事件も、彼に暗い影を落としたに違いない。
蓮人もまた、誰とも交際した経験がなかった。
言い寄ってくる者は、男女問わず数え切れない程いたが、春樹以外に興味が一切沸かないのだ。
(俺も18になって、家元に選ばれて……そろそろ、行動に移さなくては)
このところ蓮人はずっと、そればかり考えていた。
血縁関係はないので、結婚も出産も何ら問題はない。
世間の風当たりは冷たいかもしれないが、そんなもの知ったこっちゃない。
何より春樹ももう25を過ぎた。
これだけ魅力的な人がまだ独身なのは、奇跡でしかないのだ。
早く手に入れなければ、と焦るようになっていた。
だが春樹は、こちらの心情など露知らず、
「これからも俺がちゃーんと支えてやっから、任せとけ!あ、でもお前が嫁さんもらうまでだけどな。いい人捕まえろよ~」
なんて呑気に言ってくる。
(ああ、もう!)
悲しいまでに鈍感な彼は、『弟』が自分に想いを寄せてるなど、一ミリも察していないらしい。
蓮人は思わず口を開いた。
「春樹さん!」
「ん?」
「お、俺……俺が、その……嫁……お嫁さん、に……したいのはー」
「春樹。ここにいたのか」
一世一代の告白を遮ったのは、何とも淡白な低い声だった。
直ぐに誰だか分かり、蓮人は眉間に皺を寄せる。
春樹も途端に怯えた表情になり、
「雄河 ……」
不安そうに呟く彼を、すぐさま背後に隠す。
声の主は高瀬家のライバルに当たる長谷川家の一人息子、長谷川 雄河だった。
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