5 / 83

第4話

(あっという間に18歳と、25歳だもんな……) 回想に耽っていた蓮人は、春樹に「ん?どした?」と顔を覗き込まれ、ハッと我に返った。 オニキスを彷彿(ほうふつ)させる黒目がちな瞳に、ドキリと胸が高鳴る。 「何でもありません。……春樹さんと出会って、もう10年経つんだなって」 「だな。はっえーよなー!色々あったけど、お前がこうして元気に育って、家元に選ばれて。本当良かったわ」 春樹はシミジミと言い、慈愛(じあい)に満ちた眼差しでこちらを見据える。 それを受け蓮人は、複雑な想いを抱いていた。 (やっぱり春樹さんにとって俺は、『弟』でしかないんだ) そう痛感し、グッと拳を握り締める。 ー今、春樹に交際している相手は居ない。 というより、今まで居たことがない、と思う。 恐らく男性でも妊娠出来るという特異な体質ゆえ、(おく)しているのだろう。 例の事件も、彼に暗い影を落としたに違いない。 蓮人もまた、誰とも交際した経験がなかった。 言い寄ってくる者は、男女問わず数え切れない程いたが、春樹以外に興味が一切沸かないのだ。 (俺も18になって、家元に選ばれて……そろそろ、行動に移さなくては) このところ蓮人はずっと、そればかり考えていた。 血縁関係はないので、結婚も出産も何ら問題はない。 世間の風当たりは冷たいかもしれないが、そんなもの知ったこっちゃない。 何より春樹ももう25を過ぎた。 これだけ魅力的な人がまだ独身なのは、奇跡でしかないのだ。 早く手に入れなければ、と焦るようになっていた。 だが春樹は、こちらの心情など露知らず、 「これからも俺がちゃーんと支えてやっから、任せとけ!あ、でもお前が嫁さんもらうまでだけどな。いい人捕まえろよ~」 なんて呑気に言ってくる。 (ああ、もう!) 悲しいまでに鈍感な彼は、『弟』が自分に想いを寄せてるなど、一ミリも察していないらしい。 蓮人は思わず口を開いた。 「春樹さん!」 「ん?」 「お、俺……俺が、その……嫁……お嫁さん、に……したいのはー」 「春樹。ここにいたのか」 一世一代の告白を遮ったのは、何とも淡白な低い声だった。 直ぐに誰だか分かり、蓮人は眉間に皺を寄せる。 春樹も途端に怯えた表情になり、 「雄河(ゆうが)……」 不安そうに呟く彼を、すぐさま背後に隠す。 声の主は高瀬家のライバルに当たる長谷川家の一人息子、長谷川 雄河だった。

ともだちにシェアしよう!