6 / 83

第5話

長谷川家は高瀬家と敵対する華道の家元で、しかし表面上は友好関係を装っており、春樹と同級生である雄河は、何かにつけてこちらを訪れていた。 彼は精悍(せいかん)で整った顔立ちをしていて、パッと見は好青年に見えるものの、実際は自分より目下の者には横柄(おうへい)な態度をとる為、反感を買うことも多かった。 特に蓮人に対しては、剛健と美代子の目を盗んで、 『お前、本当は貧乏なんだろ。何でここにいるんだよ』 『花を活けるなんて生意気な。雑草でもむしってろ』 などと暴言を吐き、気付いた春樹が『やめろよ!』と庇うと、 『男の癖に妊娠なんかする奴が、偉そうにすんな!』 と突き飛ばしたり、軽くではあるが打ったりした。 ……許せなかった。 自分はどれだけ罵られようが、暴力を振るわれようが構わない。 だが春樹は、春樹を傷つけることだけは、絶対に許せなかった。 しかし7歳も年下の蓮人が太刀打ち出来る訳もなく、『春樹さんに触るなっ!』と体当たりしても、返り討ちに遭ってばかりいた。 そのたびに雄河は、冷ややかな目線をこちらに注ぎ、 『たかが養子が、身分を(わきま)えろ。……お前なんか、春樹をものに出来る訳ないからな?』 ……耳元で囁かれ、慄然(りつぜん)とした。 自分の気持ちを見透かされている。 しかもどういう意図か知らないが、牽制(けんせい)されてしまった。 雄河は女性との噂が絶えないので、春樹を狙っているとは考えにくいが……。 ゾワゾワと、筆舌(ひつぜつ)に尽くしがたい感情が沸いてきたのを、はっきりと覚えている。 そんな男が、蓮人が跡取りに決まった途端に現れた。 嫌な予感しかしない。 「こんにちは、雄河さん。何かご用ですか?」 蓮人は笑顔を貼り付け、問い掛ける。 雄河はジロリとこちらを睨み付け、 「ああ、新しい当主様か。どうもおめでとう。だが今日俺は、春樹に話があってね。剛健さんと美代子さんも待ってる」 「父さんと母さんも……?」 思いもよらぬ展開に、またしても眉を(ひそ)めた。 雄河は剛健と美代子の前では良い子を演じているので、残念ながら好感を持たれている。 そんな二人と春樹を前に、何を話そうというのか。 (……いや、……そんなはずは……) 最悪の事態を想定してしまい、額に冷や汗が滲む。 確かに蓮人が跡取りに決まった今、春樹と雄河が婚姻を結び、両家の関係を改善させれば、互いにメリットが生まれるだろう。 でもまさか、そんなー。 「さ、春樹。早く行くぞ」 「お、おぅ……まぁ親父とお袋が呼んでるなら……」 春樹は(いぶか)しげにしつつも、雄河の元へ行こうとする。 雄河の思惑など、少しも察していない様相だ。 蓮人は慌てて立ち塞がり、 「俺も行きます!一緒に話をー」 「悪いが、君は席を外してくれ。次期当主とは言え、高瀬家とは血の繋がりはない部外者なのだから。プライベートな話を聞かれたくない」 雄河に正論を突き付けられ、言葉に詰まる。 春樹は安心させるように、ニコニコと笑顔で、 「だいじょーぶ!話が終わったらすぐ戻ってくっから。ちょっと待っててな」 「春樹さん……」 彼にそう言われては、無理強いは出来なかった。 蓮人は春樹と雄河が去っていくのを、暫し見送っていたがー。 当然いてもたってもいられなくなり、急いで後を追った。

ともだちにシェアしよう!