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第5話
長谷川家は高瀬家と敵対する華道の家元で、しかし表面上は友好関係を装っており、春樹と同級生である雄河は、何かにつけてこちらを訪れていた。
彼は精悍 で整った顔立ちをしていて、パッと見は好青年に見えるものの、実際は自分より目下の者には横柄 な態度をとる為、反感を買うことも多かった。
特に蓮人に対しては、剛健と美代子の目を盗んで、
『お前、本当は貧乏なんだろ。何でここにいるんだよ』
『花を活けるなんて生意気な。雑草でもむしってろ』
などと暴言を吐き、気付いた春樹が『やめろよ!』と庇うと、
『男の癖に妊娠なんかする奴が、偉そうにすんな!』
と突き飛ばしたり、軽くではあるが打ったりした。
……許せなかった。
自分はどれだけ罵られようが、暴力を振るわれようが構わない。
だが春樹は、春樹を傷つけることだけは、絶対に許せなかった。
しかし7歳も年下の蓮人が太刀打ち出来る訳もなく、『春樹さんに触るなっ!』と体当たりしても、返り討ちに遭ってばかりいた。
そのたびに雄河は、冷ややかな目線をこちらに注ぎ、
『たかが養子が、身分を弁 えろ。……お前なんか、春樹をものに出来る訳ないからな?』
……耳元で囁かれ、慄然 とした。
自分の気持ちを見透かされている。
しかもどういう意図か知らないが、牽制 されてしまった。
雄河は女性との噂が絶えないので、春樹を狙っているとは考えにくいが……。
ゾワゾワと、筆舌 に尽くしがたい感情が沸いてきたのを、はっきりと覚えている。
そんな男が、蓮人が跡取りに決まった途端に現れた。
嫌な予感しかしない。
「こんにちは、雄河さん。何かご用ですか?」
蓮人は笑顔を貼り付け、問い掛ける。
雄河はジロリとこちらを睨み付け、
「ああ、新しい当主様か。どうもおめでとう。だが今日俺は、春樹に話があってね。剛健さんと美代子さんも待ってる」
「父さんと母さんも……?」
思いもよらぬ展開に、またしても眉を顰 めた。
雄河は剛健と美代子の前では良い子を演じているので、残念ながら好感を持たれている。
そんな二人と春樹を前に、何を話そうというのか。
(……いや、……そんなはずは……)
最悪の事態を想定してしまい、額に冷や汗が滲む。
確かに蓮人が跡取りに決まった今、春樹と雄河が婚姻を結び、両家の関係を改善させれば、互いにメリットが生まれるだろう。
でもまさか、そんなー。
「さ、春樹。早く行くぞ」
「お、おぅ……まぁ親父とお袋が呼んでるなら……」
春樹は訝 しげにしつつも、雄河の元へ行こうとする。
雄河の思惑など、少しも察していない様相だ。
蓮人は慌てて立ち塞がり、
「俺も行きます!一緒に話をー」
「悪いが、君は席を外してくれ。次期当主とは言え、高瀬家とは血の繋がりはない部外者なのだから。プライベートな話を聞かれたくない」
雄河に正論を突き付けられ、言葉に詰まる。
春樹は安心させるように、ニコニコと笑顔で、
「だいじょーぶ!話が終わったらすぐ戻ってくっから。ちょっと待っててな」
「春樹さん……」
彼にそう言われては、無理強いは出来なかった。
蓮人は春樹と雄河が去っていくのを、暫し見送っていたがー。
当然いてもたってもいられなくなり、急いで後を追った。
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