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第6話
「あ、蓮人様!」
本宅に戻ると直ぐに、家政婦の山川 莉那 が血相を変えて駆け寄ってきた。
彼女は蓮人と同い年で、中学を卒業してこちらに就職し、夜間の高校に通いながら仕事に励んでいる。
小柄で愛らしい容姿からは想像出来ない程、バイタリティ溢れる人だ。
気兼ねなく話せる、数少ない友人でもある。
春樹への想いも、勘づいているようだった。
「今、春樹様と雄河様が旦那様達と……」
「ああ。だから追ってきた。何の話か分からないけど……」
「家政婦の間ではもっぱら、結婚の申し出ではないかと騒いでいます」
聞いた途端、思わず舌打ちをしそうになった。
嫌な予感が的中したらしい。
それにしても。
「……何で、女好きで有名なあいつが……」
「近頃長谷川家は人気が低迷し、焦っていると聞いています。そこへ誰からも好かれている春樹様を娶 り、立て直す算段なのでしょう。春樹様は妊娠が出来ますので、跡取りの心配もありません。前々から高瀬家の跡取りは蓮人様になると踏んで、勝手に計画していたかと」
「クソッ!……ああ、ごめん」
「いいえ。私もあんな方に春樹様を渡すなんて、絶対に許せませんわ」
思いの外語気 を強める莉那に、驚いて目を見開くと、彼女は暗い表情になり、
「……実は私の友人が、雄河様とお付き合いしていたのですが……その、彼は加虐趣味があるようで……酷い目に遭わされた挙げ句、捨てられたのです」
「……!」
全身に戦慄 が走った。
横暴な男だと知ってはいたが、まさかそこまでとは。
春樹にも何をするか、分かったものじゃない。
しかも愛情のない政略結婚だ。
雄河にいたぶられ泣いている彼の姿が脳裏に浮かび、歯を食い縛った。
(そんなこと、絶対にさせない!)
蓮人は前方を見据え、自身を奮 い立たせた。
「大丈夫。春樹さんは絶対に俺が守る」
「蓮人様……はい、約束ですよ」
莉那が心底安堵したのが伝わってくる。
誰にでも優しい春樹は、家政婦達からも絶大な支持を得ている。
皆が彼の幸せを願っているのだ。
「とにかく、俺も話を聞きたい。三人は今何処に?」
「応接間です。……蓮人様、どうか春樹様をお願いします……!」
神に祈りを捧げるかの如く、手を合わせる莉那の肩を軽く叩き、蓮人は足早に応接間へと向かった。
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