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第11話

眼前には、凄惨(せいさん)な光景が広がっていた。 春樹の衣服は乱れ、露になった白い肌にはいくつものあざが出来ている。 顔は涙に(まみ)れており、なのに雄河は彼の胸ぐらを掴み、まだ拳を振り上げていた。 蓮人は怒りで我を忘れ、 「春樹さんから離れろ!!!」 怒号を上げながら、二人の間に割って入った。 今はもう雄河よりも身長が高く、体つきも堅牢(けんろう)になったので、何とか敵った。 ガタガタと震える春樹をギュッと、力強く抱き締める。 宝物を奪われないかのように。 「んだよ、邪魔するな。退け」 そう凄む雄河を、蓮人も負けじと睨み付け、 「絶対に退きません。こんなこと、絶対に許さない!」 「ハッ!許すも何も、どうせ俺の嫁になるんだから、何したっていいだろ」 (酷すぎる……!) あまりに憎らしい、憮然とした態度に、殴り掛かりたい衝動に駆られたが。 春樹が服の袖を掴み、ふるふると首を横に振ったので、寸での所で踏み留まった。 ずる賢い雄河のことだ、もしここで暴力沙汰を起こしたら、どんな手を使ってでもこちらに非があるように仕向けるだろう。 勝負の前に、周りに悪印象を与える訳にはいかない。 蓮人は一瞬唇を噛み締め、 「春樹さんは俺の嫁です。理性が保てている内に、帰って下さい」 その表情は、余程鬼気迫っていたに違いない。 さすがに雄河も怖じ気づいたらしく、チッと舌打ちして、 「まぁいい。せいぜい吠えてろ。……春樹、結婚したらこれくらいでは済まないからな。覚悟しとけ」 わざとらしく足音を鳴らしながら、部屋を後にした。 途端に気が緩んだのだろう、 「うっ、ううっ……!」 春樹が嗚咽を漏らしたので、蓮人は更に腕の力を強め、何度も何度も頭を撫でた。 艶やかな黒髪の感触が、指先に残る。 「大丈夫。もう大丈夫ですから。すみません、もっと早くに帰るべきでした」 「……ちが……お、俺がもっと、……ちゃんとしたら……強かっ、たら……くっ……!」 弱々しくそう繰り返す春樹が切なくて、愛おしくて。 蓮人は彼が安堵するよう、ただただ温もりを分け与える。 (俺ももっと強くなりたい。春樹さんを守れるように) 内心不甲斐ない自分を責めていると、春樹はふと身体を離し、赤く腫れた瞼を伏せて呟くように言う。 「雄河に、言われ、たんだ……『勝負する前に、俺を選べ』って……」 「……」 そんなことだろうと思った。 心優しい春樹ならば、少し脅せば懐柔出来ると踏んだに違いない。 改めて雄河の卑劣さに、憤懣(ふんまん)やる方ない気持ちが募る。 すると春樹はコツンと、胸元に額を宛がってきて、 「でも、出来なかった……それが、蓮人の為になるって、分かってんのに……俺……」 「春樹さん……」 何を言わんとしているのか。 その真意を汲み取れず、珍しく戸惑っていたら。 春樹は潤んだ瞳でこちらを見据え、 「俺……お、お前と……ずっと一緒にいたいって……思っちまった……」

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