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第12話
その瞬間の感情は、筆舌 に尽くしがたかった。
喜びが込み上げ、けれど直ぐには信じられず、疑念 を抱いて。
(これは両思い、だよな……?)
しかしまだ確信は持てない。
春樹は年齢の割りに、初 過ぎる程初だ。
自分を恋愛対象として見ているのかどうか、これだけでは判然 としない。
そんな揺れ動く心情を知ってか知らずか、春樹は独白するかのように、
「正直、まだ……お前のこと、こ、ここ、恋人として……見れるかどうか、わ、分かんねぇし……俺じゃ……蓮人を不幸にしちまうのに……でも、俺っ……離れたくねぇっ……!」
(……!ああ、もうっ……!)
今はもう、この言葉だけで十分だった。
一生懸命訴えかける姿が、堪らなく愛おしい。
蓮人は春樹を掻 き抱き、惜しみなくその感触を堪能 する。
仄 かにミルクのような、甘い香りが鼻をくすぐった。
彼は身に纏 う香りまで無垢なのだ。
「嬉しい……凄く、凄く嬉しいです」
「……蓮人……」
「俺、絶対に勝ちます。そして正々堂々、貴方を嫁にしてみせる。誰にも文句は言わせません」
「……お、おぅ……」
春樹は突然の熱い抱擁 に狼狽 したようで、見ると耳元まで真っ赤になっていた。
何物にも染まっていない、純然 たる存在。
絶対に、絶対に雄河の毒牙 にかける訳にはいかない。
汚させてなるものか。
(俺は必ず、勝つ)
春樹の柔肌 を感じながら、蓮人は幾度 もそう誓っていた。
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