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第13話
蓮人は月が好きだ。
見ていると心が落ち着く。
幼い頃散々酷い目に遭い、孤独に苛 まれた時も、月を見ると不思議と穏やかな気持ちになれた。
今も、また。
(ついに明日か……)
決戦の時を明日に控え、蓮人は平静を保つ為、縁側 でぼんやりとそれを眺めていた。
もう限界を超える程、練習を積み重ねてきた。
睡眠時間を削りに削り、最後は学校まで休んで、心血 を注いだ。
不安はない。
後は勝つのみだ。
そして。
「蓮人。寝れないのか?」
背後から春樹の声が聞こえ、ハッとする。
彼は艶 やかな浴衣姿でー当家では寝間着は浴衣なのだー、月光に照らされたその顔は、普段の少年ぽさが薄れ、色香が漂っていた。
蓮人は内心ドキリとしつつも、ここで欲望を剥き出しにしてはいけないと、何とか笑顔を作る。
「ちょっと気持ちを落ち着かせたくて。月を見ると、穏やかになれるんです」
「そういやお前、昔から好きだったよな。うん、確かに蓮人には月が似合う!月っぽい!」
「あはは、ありがとうございます」
身なりと相反して、無邪気にはしゃぐ春樹を見ると、自然と顔が綻 ぶ。
(俺が月なら、春樹さんは太陽だな)
いつでも明るく照らしてくれ、鬱屈 した気持ちなど吹き飛ばしてくれる。
彼が居るから、自分も輝ける。
どれだけ恋い焦がれてきたことか。
その彼をもうすぐ、独り占め出来るのだ。
(絶対に勝ってみせる)
蓮人はそっと、手の甲で春樹の頬を撫でた。
すると彼は「うおおお!?」と脱兎 の如く飛び退き、顔を真っ赤にさせている。
一応想いが通じ合ったはずだが、まだまだ甘いムードには程遠いようだ。
(まぁいいや。とにかく、今は)
勝負に勝ち、まずは形だけでも『夫夫』になること。
後は時間をかけて、新たな関係を築き上げていけばいい。
蓮人はクスクスと含み笑いをし、
「すみません、驚かせて」
「う、あ、いや……わ、わりぃ……俺……」
「大丈夫です。春樹さんの嫌がる事はしな」
「いや!……い、嫌じゃねぇ……んだけど……ちょっとまだ……慣れないっつーか……」
拗ねたように口を尖らせ、ぶつぶつと弁解 をする春樹。
その愛らしさと言ったら。
欲望を抑えられた自分を誉めて欲しい。
蓮人は小さく咳払いをし、これくらいならばいいだろうと、彼の滑らかな手の甲に掌を重ね、
「明日、絶対に勝ちます。そして、貴方を嫁にする。そうしたら」
俺だけのものになって下さい。
語尾を耳元で囁くと、春樹の顔はますます赤みが増し、しかし今度は振り払おうとはしなかった。
彼はコクンと頷きー恐る恐る、こちらの肩に身を委ねてきて。
蓮人はギュッとその手を握り締め、静かに瞼を閉じた。
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