17 / 83
第16話
後日、蓮人と春樹の婚約が正式に発表された。
蓮人としては直ぐにでも入籍したかったのだが、立場が立場なだけになかなか難しい。
親戚やご贔屓 さんへの挨拶、学校への報告、役所とのやり取り。
全てを終え、いよいよ明日入籍するにあたり、二人だけでささやかなパーティーを開きたい、と春樹が言い出した。
「結婚式は盛大にすんだろ?その前にさ、ちょっと昔みたいに、美味いもんとかケーキとか用意して、二人だけでお祝いしてぇんだけど……」
もじもじと、少し恥ずかしそうにそう提案する春樹は、実に愛らしかった。
存外ロマンティストな彼らしい。
蓮人はポンポン、とその頭を軽く叩き、
「俺もしたいです。是非やりましょう」
「!お、おう。じゃあ莉那ちゃん達にご馳走作ってもらうよう言ってくる!ハンバーグとかいいよな~あっ、ケーキは俺買ってくるわ!駅前のケーキ屋、お前好きだろ?あそこでショートケーキと……」
春樹は顔を綻ばせ、嬉々として喋り続けている。
あんまり幸せそうだから、こちらまで気持ちが高揚 する。
(この人とずっと一緒に居れるんだ)
じわじわと。
実感が沸いてきて、蓮人は胸がいっぱいになった。
幼い頃惨めな目にばかり遭い、神など居ないと嘆いていたが。
今はもしかしたら存在していて、春樹と出会わせてくれたのかもしれない。
天使みたいに純粋無垢な、この人と。
そう思えるようになっていた。
「んじゃ、ケーキ買っておくから。ちゃんと勉強して来いよ~」
本音を言えば春樹の傍に居たいのだが、悲しいかなまだ未成年、勉学に励まなくてはならない。
蓮人は名残惜しげに彼の頬を撫で、
「早めに帰ってきますから。今夜、楽しみにしてます」
「おう、俺も楽しみ!……明日からは『夫夫』だもんな。へへっ。やっぱ……幸せ、だな」
照れたように鼻の下を掻く春樹は、出会った頃の面影 が色濃く残っていた。
円らな瞳は汚れがなく、真っ直ぐにこちらを射貫 く。
(一時も離れたくないな……)
蓮人は後ろ髪を引かれる想いで、学校へと向かった。
春樹はずっとずっと、大きく手を振ってくれていた。
その夕に春樹は、忽然 と姿を消した。
ともだちにシェアしよう!