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第17話 ~side 春樹~
蓮人と初めて出会った時のことを、春樹は今でも鮮明に覚えている。
事前に『美形な子』とは聞いていたが、想像以上だった。
混血だろうか、アーモンド型の薄茶色の瞳に濃密な睫毛、彫りの深い鼻筋が印象的で、こんなに端整 な顔立ちの人間は、生まれてこの方ーまだ15歳だったがー見たことがなかった。
だが如何せん覇気 がなく、身に纏 うオーラがとにかくどす黒くて、これまでの苦労を窺わせた。
まだ中学生だった春樹でも、胸が痛んだ程だ。
(これからはいっぱい笑顔にしてやりたい!)
そう思った春樹は、惜しみなく蓮人に愛情を注いだ。
それは哀れみだけではなく、ただ純粋に歳の離れた『弟』が出来て嬉しかったから。
彼は優しくひたむきな子だったので、内面も直ぐに気に入った。
次第にあどけない笑顔を見せるようになり、誰よりも自分に懐いてくれて、もう可愛くて仕方なかった。
ただ唯一不満だったのは、いつまでも敬語を崩さず、『兄さん』と呼ばないこと。
さりげなく理由を訊いてみても、『失礼なので……』と言葉を濁され、となれば無理強いは出来なかった。
(まぁ、実の兄弟じゃねぇから仕方ないけど……ちょっと寂しいなー)
と一抹の寂しさを感じながらも、日々蓮人との仲が深まっていく内に、受け入れられるようになってきた。
呼び方や言葉遣いなんて関係ない。
自分達には血の繋がり以上の絆がある。
そう信じていた。
なのに。
『春樹さんを、嫁として迎えさせて下さい』
……全身が、硬直してしまった。
雄河からのプロポーズにも驚愕 し、戸惑いを隠せなかったが、更に追い討ちをかけられた気がした。
十年間ずっと、『弟』として接してきた。
無論向こうも同じだと思っていた。
喜びや怒り等の感情はなく、ただただ呆然としてしまって。
けれどふと我に返り、焦燥 に駆られた。
蓮人は若くて美形で、当家の跡取りになる実力まで持ち合わせ、しかも性格まで申し分ない。
自分は妊娠は出来るとは言え、7歳も年上で容姿も随分見劣りするし、到底好条件とは言い難い。
(駄目だ、……)
蓮人はもっと若くて可愛い、同世代の女の子と普通の恋愛をするべきだ。
そう考えた春樹は、心を鬼にして拒絶した。
何としてでも、彼には幸せになって欲しかった。
こんな特異な体質の男に囚 われてはいけない。
しかし。
『俺は春樹さんしか愛せない。女でも男でも、他人なんかどうでもいい。例え春樹さんが妊娠出来ないとしても、貴方しか考えられないんです』
『……嫌ですか?俺のこと……嫌いになりましたか……?』
『俺の幸せは、春樹さんの傍にいること。ただそれだけです。……春樹さんは?春樹さんは……どうしたい……?』
蓮人の訴えかけるような眼差しに、言葉を詰まらせた。
彫刻を彷彿させる、完璧なまでの美しい顔が間近に迫る。
(こんなの反則だろ!)
蓮人のことは勿論、好きだ。大好きだ。
でも今更、『弟』ではなく『男』として見れるかどうか、なんて。
分からない。
分かる訳がない。
春樹は思考回路が混線し、睡眠すらまともにとれない日々が続いた。
夜瞼を閉じると、どうしても蓮人との思い出が脳裏に浮かんで。
初めて無邪気な笑顔を見せてくれた、恥ずかしそうに摘んできた花を渡してくれた、性的な被害を受けた時、一生懸命守ってくれたー。
(俺……俺、蓮人のこと……どう思ってんだろ……)
答えが見つからない中、転機が訪れる。
雄河が突然、自宅に乗り込んできたのだ。
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