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第20話

目覚めてすぐ視界に飛び込んできたのは、見慣れぬ天井だった。 コンクリートの打ちっぱなしで、無機質な印象を与える。 春樹は起き上がろうとして、頭痛が襲い掛かり咄嗟に手で押さえた。 血は出ていないものの、かなり体力を消耗(しょうもう)したらしい。 動きは鈍く、思考回路もまともに働かなかった。 それでも懸命に、現状を把握しようとする。 「ここは、……どこだ……?」 天井だけではなく、見渡す限り全てコンクリートの打ちっぱなしで、窓すらない。 出入口らしきドアは離れた所に設けられており、すぐさま駆け寄ろうとするも。 ジャラン。 「……え……」 一気に血の気が引いた。 春樹はベッドの上に居て、……頑丈な革製の首輪がはめられていた。 それは長いシルバーの鎖がついており、ベッドの柵にくくりつけられている。 「んだよ、これっ!」 一心不乱に首輪を外そうとするが、ビクともしない。 不安と恐怖で錯乱(さくらん)しそうになる中、ふと。 自身が紺色の浴衣を着させられていることに気付いた。 朝顔の柄が目にも鮮やかで、しかし25歳の自分が着るには幼すぎるデザインだ。 (そういや昔、こういうの着てたような) 疑念を抱いたものの、今はそれに拘泥(こうでい)している場合ではない。 とにかくここは何処なのか、どうして居るのか、調べなくては。 春樹は改めて辺りを見渡し、もう一つドアがあるのに気付いた。 先程のものより簡易な造りで、それは鎖に繋がれていてもドアノブに手が届く。 (おもむろ)に中を覗いてみると、便器とシャワーが設置されていた。 最低限の生活が出来るよう配慮(はいりょ)されているらしい、が。 (完全に独房じゃねぇか、これ……!) ますます恐怖に駆られ、春樹は声が張り裂けんばかりに叫んだ。 「誰かー!誰か!ここから、出してくれー!!!」 しかし、返ってくるのは完全なる静寂(せいじゃく)。 小鳥の(さえず)りすら聞こえてこない。 自分の置かれた環境が、否が応でも分かってきて。 ガタガタと全身が震え出した。 「ど……しよ……どうしよっ……」 パニックに(おちい)り、ひたすら愛おしい人の名を呼ぶ。 「蓮人っ!れんと、れんとっ!助けてっ 、助けてーっ!!!」 だが残酷にも、ただ自身の声が反響するばかり。 直ぐに何もない空に吸収されてしまう。 春樹は呆然とし、ヘタリとその場に崩れ落ちた。 こんなはずではなかった。 こんな。 今夜は蓮人と一緒にご馳走を食し、昔みたいにケーキを頬張る彼を見つめ、幸せに(ひた)るはずだった、なのに。 「蓮、人……俺っ、……ど……すれば……」 目頭に熱が帯び、ポタポタと。 透明の雫が床に落ち、小さな染みを作っていく。 一人絶望に苛まれているとー突然、出入口と思われる方のドアが開いた。 (蓮人!?) 一縷(いちる)の望みと共に見遣るも、そこには。 「雄……河……」 不敵(ふてき)な笑みを浮かべた雄河が、(たたず)んでいた。

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