23 / 83

第22話

「あぅっ!」 背中に鈍痛が走り、思わず声が漏れる。 直ぐに起き上がろうとするも、雄河が馬乗りになってきて敵わない。 スプリングが(きし)む音が、鼓膜を揺さぶった。 何をされようとしているのか。 容易に想像が出来て、悲鳴を上げそうだった。 案の定、雄河は怪しげな笑みを浮かべ、 「さ、俺達の子供を作ろう。そうすれば誰も文句は言わないだろう。蓮人だって諦めてくれる」 恐ろしいまでに淡々とした、抑揚(よくよう)のない口調。 その癖抵抗するのは許さない、と脅されているかのような威圧感があった。 春樹は慄然(りつぜん)とし、駄々(だだ)をこねる幼子みたく全身を使って暴れ、 「やめろっ!!!こんなこと、間違ってる!!!」 と訴えかけるも虚しく、首輪によって拘束(こうそく)されている身では、どうしようもない。 雄河もこちらの言動など全く意に介してない様相で、荒々しく浴衣を乱した。 まだ何者にも汚されていない、ピンク色に染まった胸の突起(とっき)が現れ、春樹はカッと顔に熱が集中する。 「ああ、想像どおりだ……綺麗な色をしている。なのに敏感そうで……本当にそそられるな……」 「ひっ」 生温かい感触が突起を包み込み、春樹は思わず声を漏らした。 雄河はチュクチュクチュク、とわざとらしく音を上げ、それを執拗(しつよう)に舐め回す。 (蓮人にも、……触られたこと、……ねぇのにっ……!) あまりの不快感に、自然と涙が溢れた。 蓮人の美しく、穏やかな笑顔が脳裏に浮かぶ。 彼以外の人間に犯されるのか。 そもそももう、二度と会えないかもしれない。 そう考えたら底知れぬ悲しみと恐怖で、気が触れてしまいそうだった。 雄河はこちらの心情など露知らず、恍惚(こうこつ)とした様子で、 「相変わらずこの浴衣、よく似合ってる。覚えてるか?初めて会った時に着ていたんだよ、春樹。緊張していた俺に、笑いかけてくれた……その時から、ずっと俺は……」 「……そんな、……俺のこと、散々馬鹿にして……」 「愛してるからこそ、痛めつけたくなるんだよ。ま、蓮人に関してはただただ憎かっただけだがね」 到底理解出来ぬ雄河の思考に、ただ愕然とするばかりだった。 自分がどれだけ傷付き、苦しんできたか想像もしていないのだろう。 (いきどお)りよりも、その身勝手さに震えるしかなかった。 するとー無理矢理足を開かされ、隙間から性器と秘部が(さら)されて。 春樹は半狂乱になって、喉が張り裂けんばかりに叫んだ。 「やだっ!嫌だ嫌だっ!!!」 涙ながらに拒んでも、体格のいい雄河には太刀打ち出来ない。 成人男性にしてはかなり陰毛が薄く、未だ少年のような形状の性器と、誰にも触れられていない、自慰(じい)すらしたことのない淡い朱色の秘部に、雄河は興奮を隠せないようだった。 「もしかして……蓮人どころか、自分で触ったこともないのか?」 ズバリ指摘され、グッと唇を噛み締める。 それは『イエス』と白状したも同然だった。 とにかく性に対して(うと)い春樹は、自身で弄ることも滅多になかったのだ。 だからこそ容貌(ようぼう)も、未だ幼さが残っているのかもしれない。 雄河は(いや)しく舌なめずりをし、……下半身に手を伸ばしてきた。 「!やだ!いやあああーっ!!!」 無駄だと分かっていても、渾身(こんしん)の力で雄河を振り払おうとすると。 思い切り頬を打たれ、髪の毛を鷲掴みにされた。 意識が朦朧(もうろう)とし視界が霞む中、恐ろしい鬼の形相が見える。 「大人しくしろ。萎えるだろ?両手両足を折ってもいいんだぜ。あ?」 「うっ、うぅっ」 これ以上抗ったら、雄河の暴力は激化するに違いない。 最悪、命すら危うくなるかもしれない。 そうなれば、本当に蓮人に会えなくなる。 完全に望みが絶たれてしまう。 春樹は瞼を固く閉じて、覚悟を決めたように動きを止めた。 (蓮人、蓮人) まるでおまじないの如く、愛おしい人の名を反芻(はんすう)する。 雄河のジッパーを下ろす音が、耳にこびりついて離れなかった。

ともだちにシェアしよう!