24 / 83
第23話
ブーッブーッ。
静かなはずの空間に、突如機械音が響き渡った。
スマートフォンのバイブレーションだ。
春樹は恐る恐る薄目を開けた。
上着の懐 に入れているのか、雄河の胸元から聞こえてくる。
彼は一端無視しようとしたが、思いの外執拗に鳴り続ける為、舌打ちをしてそれを取り出した。
表示されている名前を見て、一瞬目を剥 いて、
「はい、お父様。……ええ、ちょっと手に入れたい希少な花があって、遠方へ。え?……分かりました。直ぐに戻ります」
通話を切り、盛大に嘆息を吐く。
そしてこちらに向き直り、人差し指でそっと頬を撫でてきた。
春樹はビクリと肩を揺らし、目線を泳がせる。
「急用が出来た。帰って来たら直ぐに続きをしよう。俺達の子供、きっと可愛いぞ。楽しみにしてる」
雄河はそう言い残し、足早に部屋を後にした。
春樹は一気に脱力しー改めて恐怖が襲い掛かってきて、堰 を切ったように泣き叫んだ。
「あ……ああ……あああああっ!!!」
このまま、一生ここで生きていくのか。
雄河に飼い慣らされたまま。
性的にもいたぶられ、望まぬ妊娠と出産をし、畜生 に成り下がれと言うのか。
想像しただけで怖くて堪らず、更には悔しくて悔しくて。
「蓮人……会いてぇ……会いてぇよぉ……」
やっと気持ちが通じ合ったのに。
幸せにしてやりたいと、心底願っていたのに。
「ごめん……ごめんな……」
春樹は嗚咽 混じりに、延々と謝罪を繰り返した。
哀れに掠れたその声は、無情にも誰にも届かず消えていった。
ともだちにシェアしよう!