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第23話

ブーッブーッ。 静かなはずの空間に、突如機械音が響き渡った。 スマートフォンのバイブレーションだ。 春樹は恐る恐る薄目を開けた。 上着の(ふところ)に入れているのか、雄河の胸元から聞こえてくる。 彼は一端無視しようとしたが、思いの外執拗に鳴り続ける為、舌打ちをしてそれを取り出した。 表示されている名前を見て、一瞬目を()いて、 「はい、お父様。……ええ、ちょっと手に入れたい希少な花があって、遠方へ。え?……分かりました。直ぐに戻ります」 通話を切り、盛大に嘆息を吐く。 そしてこちらに向き直り、人差し指でそっと頬を撫でてきた。 春樹はビクリと肩を揺らし、目線を泳がせる。 「急用が出来た。帰って来たら直ぐに続きをしよう。俺達の子供、きっと可愛いぞ。楽しみにしてる」 雄河はそう言い残し、足早に部屋を後にした。 春樹は一気に脱力しー改めて恐怖が襲い掛かってきて、(せき)を切ったように泣き叫んだ。 「あ……ああ……あああああっ!!!」 このまま、一生ここで生きていくのか。 雄河に飼い慣らされたまま。 性的にもいたぶられ、望まぬ妊娠と出産をし、畜生(ちくしょう)に成り下がれと言うのか。 想像しただけで怖くて堪らず、更には悔しくて悔しくて。 「蓮人……会いてぇ……会いてぇよぉ……」 やっと気持ちが通じ合ったのに。 幸せにしてやりたいと、心底願っていたのに。 「ごめん……ごめんな……」 春樹は嗚咽(おえつ)混じりに、延々と謝罪を繰り返した。 哀れに掠れたその声は、無情にも誰にも届かず消えていった。

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