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第28話~side 蓮人~

春樹が行方不明になり、思い当たる節は一つしかなかった。 (絶対に雄河の仕業だ……!) 初っ端からそう確信していた蓮人は、直ぐに雄河を問いただそうとした。 しかし冷静に考えて、正攻法(せいこうほう)でどうにかなる相手ではない。 証拠も何もない状態で(わめ)いても、こちらが悪者にされるだけだ。 愛しい人が酷い目に遭っているかもしれない、と想像するだけで焦燥に駆られ、正気を失いそうだったが。 とにかく慎重にことを進めなければ。 「春樹……せっかく蓮人と婚約したというのに……一体何処に……」 「きっと事件に巻き込まれたんだわ。ケーキ屋さん、とっても楽しそうにしてたっておっしゃってたもの。自分から居なくなるなんて、考えられない。……ああ、あの子に何かあったら、私……!」 「美代子……」 剛健と美代子はすっかり焦燥(しょうすい)しきり、肩を落としていた。 恩義(おんぎ)を感じている人達が苦しむ様は、見ていて胸が締め付けられる。 莉那を含む家政婦達も悲しみに暮れ、泣き出す者も少なくなく。 それ程春樹は愛されているのだ。 (俺が絶対、探し出してやる!) そう心に決めた蓮人は、まず身近な人達を集め協力を(あお)いだ。 警察にも届は出したが、若い成人男性だと本気で取り合っては貰えない。 身近と一言で言っても、名家である高瀬家となれば膨大な人数になる。 重ねて周囲からの信頼も厚く、特に春樹は年齢問わず慕われていた為、自ら加勢(かせい)してくれる者もいた。 そして、その中に……雄河の姿もあった。 「出先でお父様から話を聞いて、ビックリしたよ。春樹が居なくなったんだって?まぁマリッジブルーってやつじゃないか?兄弟から夫夫になるなんて、やっぱり難しかったんだな」 (こいつ……!) いけしゃあしゃあと『演技』をする雄河を、今にも飛び掛からん勢いで睨みつけてやった。 しかし向こうは動じる気配はない。 やはり真っ向から挑んでも、容易に尻尾は出さないだろう。 (落ち着け、落ち着け) ここで激昂(げきこう)したら、完全に自分が悪者になる。 蓮人は何とか表情を元に戻し、本心を悟られないよう注意しながら、 「ご心配ありがとう。家出じゃなくて、事件に巻き込まれたんだと思う。絶対に助けてみせるよ。……絶対に」 敢えて抑揚(よくよう)のない、淡白な口調で告げると。 雄河は悠然と鼻で笑い、その場を後にした。 罵詈雑言(ばりぞうごん)が喉元まで出かかったものの、呑み込んだ自分を誉めてやりたい。 後は雄河を尾行して、春樹の元へ向かう瞬間を狙いたいが……。 (警戒して、しばらくは行かないかもしれない。ずっと張り付く訳にもいかないし。それより雄河を出し抜かなくては) 蓮人は全体的な捜索の指揮は剛健に任せ(こちらに雄河は参加しているので、拘束が約束される)、水面下で雄河の内情を探った。 長谷川家が所有する土地、別荘を洗い出し、密かに巡るも不発に終わる。 そもそもあのずる賢い彼が、そんな即露呈(ろてい)する場所を選ぶだろうか? もしかしてー信頼出来る近しい人間に、提供して貰ったのではないか。 となれば人選は絞られた。 「ああ、確かに雄河くんに別荘を貸してるよ。何でも人気のない所で花の修行をしたいって。滅多に使わないからね、掃除もしてくれるって言うから、ウィンウィンかと思ってさ」 そう話すのは、捜索にも参加している雄河の叔父だった。 まさにビンゴである。 気の毒に、彼はまさか自分の所有する場所で犯罪が行われているとは、一切考えていないようで。 時間がないので単刀直入に蓮人の推察(すいさつ)を伝えると、初めは信じられない、と(かぶり)を振っていたが、その熱意に根負けした様相で、 「分かった。雄河くんの無実を証明する為にも協力しよう。合鍵を渡すよ」 「……!ありがとうございます!」 かくして蓮人は、雄河が捜索に気を取られている間に、教えられた別荘に急いだのだったー。

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