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第33話
露天風呂もまた、噂に違わぬ魅惑的な造りだった。
青々とした繁みに囲まれ、『大自然の中に突如現れた桃源郷 』みたいだ。
春樹は瞳を爛々 と輝かせ、タオルで下半身を隠すでもなく、開けっ広げな姿で駆け回る。
「いいなぁ、こういうの。ドラマみたい!」
「そうですね」
と相槌 を打ちつつ、蓮人は内心気が気でない。
前述したように春樹の裸体は美しく、当然人目を引く。
特に妊娠出来る男性は、身体のラインが何処か艶 かしく、周囲の人々が関心を持っているのが嫌でも分かった。
(やっぱり部屋にあるお風呂だけにしとけば良かったな。でもそれじゃ、春樹さん拗ねそうだし)
春樹の無邪気さは美点 だが、時として男を惑わせてしまう。
蓮人は出来るだけ彼の盾 となり、好奇の目線から守った。
その為つい言動が不自然になり、
「蓮人!あそこのジャグジー気持ち良さそう。行こうっ」
「そうですね」
「おっ次はあっちで景色見ようぜ」
「そうですね」
「はぁ~最高~!なぁ!」
「そうですね」
……これでは心ここにあらず、と言った風に見えても仕方あるまい。
春樹はショボン、と肩を落として、
「……やっぱりお前、楽しんでなくね?」
「!い、いや、そんなことはっ」
「ごめんな。俺、知らない内にテンション下がるようなこと」
「だからっ違いますからっ!」
(しまった……誤解されちゃった)
悄然 とする春樹を、何とか励まそうとするも、上手く言葉が見つからない。
ばか正直に『貴方の裸体は男を欲情させるから、心配なんです』と言う訳にもいくまい。
雄河の一件も相まって、彼のプライドを容赦なく傷付けるだろう。
かと言って、愛しい人に嘘は吐きたくなかった。
「俺は……その……あの……」
しどろもどろになっていると、春樹はますます表情を曇らせ、しまいには。
「もう出よっか。のぼせちゃうし」
「えっあっ」
言い訳も待たずに、さっさと浴場を出て行った。
せっかくの婚前旅行だと言うのに、早速暗雲 が立ち込め、蓮人は嘆息 するしかなかった。
春樹が大切過ぎて、どうしても過保護になってしまう。
もう二度とあんな悲愴 な想いはさせたくないから。
しかし。
(ちゃんと旅行を楽しまなくちゃな。きっと春樹さんも、……その……覚悟を……決めてくれてる訳だし……)
先程の、キスを迫ってきた光景を思い出し、カッと頬が熱くなった。
『俺……蓮人になら、何されても平気だから……』
濡れた真っ赤な唇、反して乙女のように色付いた目元、赤子にも負けない滑らかな肌ー。
純な彼があそこまで大胆に出るには、相当な勇気が要ったに違いない。
(しっかりしろ、蓮人!男だろ!春樹さんを安心させて、楽しませるんだ!)
そう蓮人は自身に活を入れ、勢いよく春樹の後を追った。
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