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第34話

春樹は遊技場(ゆうぎじょう)で、マッサージ機に座って揺れていた。 浴衣姿で椅子に身を委ね、ブルブルと震えている様は、何とも可愛らしい。 思わず吹き出すと、彼は拗ねたように唇を尖らせ、 「何笑ってんだよ」 「いや、可愛いなって」 「ばっ!他の人に聞こえるだろっ!」 と苦言を呈すも、満更(まんざら)でもなさそうだ。 顔を朱に染め、口元は緩んでいる。 まだ少々ぎこちないが、ここは名誉挽回(めいよばんかい)のチャンス。 蓮人はハッと思い出し、 「春樹さん、あちらの売店でコーヒー牛乳売ってましたよ。買ってきましょうか?」 「えっマジ!?いるいるー!」 子供の如くはしゃぐ春樹を見て、また吹き出してしまう。 彼はキョトンと首を傾げていた。 全く、自分の魅力に気付いていないのも困ったものだ。 けれどこのまま無頓着でいて欲しい、とも思う。 「じゃあ行ってきますね。あ、知らない人に声をかけられても、ついて行かないで下さいね」 「俺は小学生か!」 なんて言葉の応酬を楽しみ、蓮人は意気揚々(いきようよう)と売店へと向かった。 そこは老舗旅行ならではの、昔ながらの品が数多く取り揃えられ、見ているだけで嬉しくなる。 (春樹さんも連れて来れば良かったかな。でもマッサージの途中だったし。また帰りに寄ろう) 春樹もきっと、童心(どうしん)に帰ってー彼の場合、常に童心ではあるがー喜ぶだろう。 ニコニコと満面に笑みを湛えて、『いっぱいお土産買おうぜ!』と浮かれて。 その光景を想像するだけで、幸福感で満たされる。 (春樹さんが喜んでくれたら、俺も嬉しいし、……幸せだ) 蓮人は上機嫌でコーヒー牛乳を購入し、遊技場へ戻ろうとした。 その時。 「あのっ!華道家の高瀬 蓮人さん……ですよね?」 甲高い、明朗(めいろう)な声がして振り返ると。 同世代と思われる二人組の女の子達が、頬を赤らめ、上目遣いでこちらを見つめていた。

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