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第36話
「春樹さんっ!!!」
息を荒くして部屋に飛び込むと、春樹は。
小動物を彷彿させる、その黒目がちの瞳に、いっぱい涙を溜めていた。
そして瞬きをした瞬間、透き通るような肌にポロリと、一粒の雫が滴 り落ちる。
……ギュッと。
胸が締め付けられた。
堪らなかった。
あまりにも尊い、彼の健気さが。
「な、何だ、もう戻ってきたのか?せっかくだから、もっとサービスしてやれよ~あんな若くて可愛いファ」
「春樹さんっ!」
慌てた様子で涙を拭う春樹を、思わず抱き寄せる。
背後から力強く、包み込むように。
うなじから仄かに甘い香りがして、つい唇を押し付けた。
彼は一瞬ビクリ、と体を震わせたが、黙って委ねてくれて。
蓮人は昂 る自身を何とか抑え、気持ちを吐露 する。
「ごめんなさい、寂しい想いをさせて。俺……春樹さんがあまりにも魅力的で、心配だった。他の男に見られたくなくて、つい必死になっちゃったんです」
「!ば、馬鹿。俺なんか全然」
「春樹さんは誰よりも素敵です。俺はずっとずっと……貴方と結ばれる日を夢見てた……」
ひとまず身体を離し、正面から向き合う。
一瞬甘美な空気が、間に漂う。
春樹はしかし、気まずそうに目線を逸らして、
「……本当に……俺でいいのか?」
「え?」
「お前はかっけーし、若いし、さっきみたいに女の子だって選び放題で……俺……」
(ああ、もう!)
どうしてこんなに、劣等感に苛まれているのだろう。
自分の愛情の示し方が悪いのか?
雄河などの輩共から受けた屈辱が、そうさせているのか?
蓮人は歯痒さを感じながらも、怖がらせないよう優しく、穏やかな口調で、
「春樹さんが不安なら、何度でも言います。俺は貴方を、貴方だけを愛してるんです。他には何も要らない。貴方だけが、……欲しい」
そっと。
ふくよかな唇に、啄 むようなキスをした。
ありったけの愛情を込めて、少しでも伝わるように願いながら。
長年恋い焦がれていたその感触は、想像をはるかに凌駕 する程柔らかく、心地好く。
蓮人は目眩がしそうになるのを、懸命 に耐えた。
すると。
「俺も……蓮人を、あ、愛してる……。せ、せせ、セックス……したい……」
チュドーーーン!!!
……何と言う非情な追い討ち……。
色気も何もない台詞なのに、抑えていた欲望を一気に駆り立てた。
もう駄目だ。
我慢の限界はとうに突破している。
「春樹さん……俺と……一つになって下さい……!」
それでも怖がらせないよう、出来る限り冷静を装ってそう告げると。
春樹は愛らしくコクン、と頷いた。
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