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第38話
「大丈夫ですか?春樹さん」
ぼうっとして宙を眺める春樹に、蓮人は今更ながら焦った。
そんなに手荒くしたつもりはなかったのだが、
(もしかしてやり過ぎた!?)
と内心冷や汗をかく。
すると春樹はとろん、と蕩 けた眼 をこちらに向け、
「他の男の時は……触られても気持ちわりぃ、としか思えなかったのに……蓮人は……怖くなるくらい気持ちいぃ……何でだろ……」
ドキーーーン!!!
蓮人は不意打ちを食らい、自分の方が呼吸困難に陥りそうだった。
(何だこの殺し文句は……!これで無意識だと……!?)
と頻 りに動揺するも、露呈するのはダサすぎるので、必死に格好をつけた。
春樹にとって、いつでも『冷静で頼りがいのある男』でいたいのだ。
「嬉しい。すっごく嬉しいです。俺も触りたい、一つになりたいって思うのは春樹さんだけです」
「……ほんと?」
「本当」
春樹はパァッと花の咲いたような、可憐 な笑顔を見せる。
その眩さと言ったら。
蓮人は思わず彼を抱き締め、チュ、チュ、とわざと音を立てながら、額、鼻、頬にキスを落とした。
「もお~!くすぐってぇよ~!」
春樹は身を捩 り、しかしその表情は満たされていた。
見ているだけで、幸福感で胸がいっぱいになる。
蓮人は目を細め、陶然 として彼の髪の毛を撫で付けて、
「春樹さん。……後ろ、いいですか?」
恐怖心を抱かせないよう、出来る限り自然に、柔和 な声で訊く。
春樹はハッとして目を見開き、唇を軽く噛み締めてから、小さく頷いて。
「や、優しく……してくれ……な……」
(……もう!もうもう!何でこんなに可愛いんだ!!!)
清純ぶる女の子は山ほど居るが(失礼)、春樹の場合は全くの天然だから、余計に質 が悪い。
心を鷲掴 みにし、決して離して貰えない。
きっと永遠に翻弄 され続けるのだろう。
それは、……とてつもなく、幸せなこと。
「大丈夫。絶対に無理はさせません。痛かったらちゃんと言って下さいね」
「……ん」
親の言い付けを守る子供の如く、しおらしい春樹に、フッと笑みが溢れる。
蓮人はあらかじめ用意しておいたジェルとスキンを取り出し、まずジェルを指先に塗った、と。
「……あの……蓮人……」
「はい?」
「……その……生で……しねぇの……?」
あまりに破壊力のある言葉に、チューブを落としてしまった。
まさか純粋無垢を具現化した彼の口から、そんな台詞が飛び出るとは。
蓮人だって本当は、スキンは使用したくない。
肌と肌で密着し、一つになりたい。
けれど。
「春樹さんの気持ち、すっごく嬉しいです。でも今回は初めてだし、出来る限り体に負担をかけたくない。俺達はこれからずっと一緒ですから。焦らず、ゆっくり進みましょう」
あれだけ焦燥に駆られていた癖に、どの口が言うか、とお叱りを受けそうだが、本心でもあった。
春樹は納得した様相で、むしろ嬉しそうに、
「分かった。……大切にしてくれて、ありがと」
(はぁ……天使っているんだな……)
神様。
こんな素晴らしい人を授けてくれて、本当にありがとうございますー。
蓮人は春樹の愛らしさにすっかり酔い痴 れ、しかし慌て自身を落ち着かせ、行為を続ける。
油断したら直ぐに我を忘れそうになるので、常に意識を集中させなければ。
「じゃあ指、入れますね。痛かったら言って下さい」
「お、おう。……んっ!!!」
まずは人差し指を、淡いピンク色の秘部にゆっくりゆっくり入れていく。
何も受け入れたことのないそこは、ジェルを使っていてもなかなかに狭く、肉壁が侵入者を阻むかの如く吸い付いてきて。
それがまた、堪らなかった。
(本当に春樹さん、初めてなんだ……俺が、初めて……)
と考えるだけで、興奮で全身がうち震える。
春樹がギュッと瞼を閉じて耐えているのもいとおしくて、ゴクンと息を呑んだ。
「大丈夫?春樹さん……」
「んっ、うっ……大丈夫、だけどっ……何か変な……感じ……」
「指、増やしてもいいですか?」
「ふぁ!?そ、そうだよな……蓮人のを入れるなら、指一本だと駄目だよな……ど、どうぞっ」
相変わらず色気もへったくれもない掛け声に、蓮人は吹き出しそうになった。
身体はこんなにイヤらしいのに。
宿っている精神が幼く、そのギャップに更に昂ってしまう。
「じゃあ、いきますね……」
「あっ、……くぅっ、んっ……!」
二本の指が春樹の汚れない秘部を、徐々に広げていく。
隙間から覗く朱色がヒクヒクと痙攣し、こちらの情欲を煽った。
まるで生き物みたいだ。
軽くピストンさせると、春樹は面白いくらいに身体を仰け反らせ、
「あっ、あぁあっ!!!」
性器を半勃ちにさせて、一人よがっている。
想像以上の反応の良さに、蓮人はまたしても激しい衝動に襲われたが、何とか抑えた。
(もう少し、もう少しだ。まだ入れたら、傷付けるかもしれない)
蓮人は深く息を吐き、自身が通っても傷が付かないよう、慎重にことを進める。
だが。
「れんとぉ……早く一つになろ……?」
……再びとんでもない殺し文句が炸裂 し。
今まで必死に保っていた理性が、脆くも崩れ落ちるのを感じた。
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