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第47話

それから蓮人は通常の業務に加え、玲美への指導も真摯に取り組み、多忙を極めた。 毎晩遅くに離れに戻って来ては、 「春樹さん……パワーを補充させて下さい……」 と膝枕を要求してくる。 そしてそのまま熟睡する、というルーティーンが出来上がりつつあった。 (子作りは少しの間、お休みかな) 柔らかい、子猫のような蓮人の髪の毛を撫でながら、思索(しさく)する。 正直焦りが募るが、疲れきったこの様を見たら、到底切り出せない。 伏せられた濃密(のうみつ)な睫毛が、目の下のくまをより強調していた。 それでも彫刻のように美しい寝顔だ。 「お疲れさん。ゆっくり休みな」 春樹は慈愛に満ちた眼差しで、ただ彼を見守った。 このまま平穏に日々が過ぎ去る、はずだった。 しかし少しずつ、少しずつ(ひず)みが生まれていく。 玲美はそれはもう熱心な『弟子』で、次第にプライベートな時間まで踏み込んでくるようになって。 春樹と蓮人が束の間、離れで談笑していても、「すみませ~ん、質問したいんですけど」とやって来たり、久しぶりのデートを計画しても、「その日、蓮人さんを貸して下さい!友達に会わせるって約束しちゃって……お願いします!」と潰されたり。 (……これは確実に、狙ってるよなぁ……) 超絶鈍感を自負する春樹でも、玲美の思惑は分かった。 そりゃ憧れの相手の『嫁』が、年上の冴えない男だなんて、受け入れがたいだろう。 しかもまだ子供がいない。 若くて可愛い自分にチャンスがある、と思っても仕方ないかもしれない。 (勿論、譲る気なんてぜーんぜんないけどっ!蓮人は俺のこと、だーい好きだしっ!) そう悠長(ゆうちょう)に構えていたものの。 蓮人と過ごす時間が少なくなるたびに、鬱屈(うっくつ)した考えが脳裏を過るようになった。 周囲の心無い人達がヒソヒソと、「蓮人さんと玲美さん、本当にお似合いね」「ね~お若いし、彼女の方が相応しいんじゃない?」と陰口を叩いているのも知っている。 未だに男性同士の結婚は奇異なものとして見られ、反感を持つ人も多いのだ。 (やっぱつれぇ……) 庭園を散策する蓮人と玲美を、遠くからぼんやりと見つめながら、物思いに耽る。 ……確かにお似合いだ。 悔しいくらいに。 楽しそうに花を摘む玲美に、微笑みを返す蓮人。 誰もが仲の良いカップルだと思うだろう。 (俺は妊娠は出来るけど、あんなに小さくないし、体もゴツゴツしてっし、……ハァ……) 密かに嘆息を吐いた瞬間。 バシーン!と勢い良く肩を叩かれた。 「いっっって!!!」 痛みのあまりピョンピョン飛びはね、キッと『犯人』を睨み付ける。 「何すんだよ!?」 「春樹さんがしみったれた顔してるからですよ、らしくない」 『犯人』こと莉那は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。

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