50 / 83

第49話

「おお、蓮人。御手洗さんはー」 と春樹が言い終わるよりも早く、蓮人は莉那との間に割って入り、彼女に鋭い目線を投げ掛けた。 突然のことに頭の上に『?』が浮かび、キョトンと首を傾げる。 彼は憮然(ぶぜん)とした表情のまま、 「莉那。俺はともかく、春樹さんに無礼は止せ。高瀬家の実のご子息なんだから」 「はいはい。嫉妬させちゃって、申し訳ありません!」 「なっ」 どうやら莉那の方が、一枚も二枚も上手らしい。 図星だったのか、蓮人は珍しく狼狽(ろうばい)し、耳まで真っ赤になっていた。 (……蓮人が、嫉妬……) そう思ったら、ほかほかと。 全身が温かくなってきた。 妹的な存在である莉那にまで嫉妬するって。 (俺のこと、めちゃくちゃ好き……なんだな……) 恐らく想像している以上に。 そう考えたら、悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。 嬉しさのあまり、顔を綻ばせる。 それを見た莉那は、安堵したようにホッと息を吐いた。 「では、邪魔者は消えますので。蓮人様、春樹様を大切に、たいせつ~にして下さいね」 「言われなくても、春樹さんは誰よりも大切だから!」 同世代の莉那には、どうもムキになってしまうらしい蓮人。 すれ違いざまに彼女は、さりげなくウィンクしてきた。 もしかしたら全て計算だったのかもしれない。 自分に彼の気持ちを知らしめる為の。 (ありがとう、莉那) 一人感慨(かんがい)に耽っていると、ギュッと抱き締められ、激しく心臓が鼓動(こどう)する。 「……やっと二人きりになれましたね。……嬉しい……」 「蓮人……御手洗さんは?いいのか?」 「今は休憩中です。もう、春樹さん不足で倒れそうでした。やっと話し掛けようとしたら、莉那とイチャついてるし」 「バーカ。莉那は俺らにとって妹みたいなもんじゃん」 「分かってますけど……春樹さんに触れていいのは、俺だけです」 蓮人は子供のように嫉妬心を剥き出しにしている。 それが堪らなく愛おしい。 春樹もまた彼の背を握り締め、胸板に顔を埋めた。 「……蓮人に触っていいのも、俺だけだからな?」 「当然です」 「ふふっ」 そして額と額を合わせ、微笑みを交わす。 甘ったるい、幸せいっぱいの時間を味わえて、春樹は満たされた。 その光景を玲美が恨めしげに睨み付けているとは、知りもせずに。

ともだちにシェアしよう!