52 / 83

第51話

暗闇(くらやみ)が覆う室内で、春樹はぼんやりと虚空を見据えていた。 玲美との会話が、脳裏でずっと反芻(はんすう)している。 『蓮人さん、可哀想。女性の身体を知らないなんて。知ったらきっと、夢中になるのにな~』 『子供もなかなか出来ないみたいですし、解放してあげた方が彼の為ですよ、春樹さん♡』 (いや、惑わされちゃ駄目だっ……!) 玲美の策略に嵌まっては。 そう頭では分かっているのに、気持ちが追い付かない。 密かに抱いていた(うれ)いを、ズバリ言い当てられてしまったから。 黒ずんだ醜悪(しゅうあく)な感情が、眼前を阻んでいた。 すると、 「ただいま、春樹さん。……どうしたんですか?電気もつけないで」 蓮人の柔和で、穏やかな声が辺りに響いた。 春樹は。 咄嗟に彼に飛び付き、熱烈なキスを見舞った。 唾液(だえき)が絡み合い、いやらしい音が耳を濡らす。 「は、春樹さ……?ど、どうしました?」 こちらから積極的に迫るのは、相当珍しい。 初めてと言ってもいいかもしれない。 蓮人は動揺を露にしていたが、焦燥感を募らせていた春樹は、 「セックスしよう、蓮人」 「へっ!?」 「最近ご無沙汰だろ?お前を感じたいんだ。一つになりたい」 「い、いいですけど……あの、何かあ」 追及(ついきゅう)される前に、唇で口を塞ぐ。 何も考えられなかった。 ただ触れ合うことで、繋がることで、不安をかき消したかった。 そうすれば、きっと。 「あっ……あっ、あぅっ」 「……春樹さん……愛してますっ……誰よりもっ……!」 この台詞を、もう一度心から信じられるようになる。 玲美の辛辣(しんらつ)な言葉など、意に介さなくなる。 「俺も、蓮人、好きっ……愛してるっ……!」 「くっ……!」 そして激しく求め合って。 子供を宿して、愛する人の遺伝子を残したい。 誰もが認める、温かい家庭を築きたい。 だからお願い、神様。 どうか、どうかー。

ともだちにシェアしよう!